本to美女編集部はとある賞に注目していた。「本のサナギ賞」という賞だ。
「本のサナギ賞」とは、作家・書店・ディスカヴァー・トゥエンティワンが一丸となって取り組む、新しいエンタメ小説新人賞
今年の大賞が決定したらしい。是非とも取材をしたい!
そこで編集部は本のサナギ賞・大賞受賞作家にコンタクトを取ったら……。
「6月某日、都内某所××へ来てください」と、手紙が送られてきた。
その呼び出された場所は……

都内某所のトイレだった。
編集部の小幡(@obata_gekido)は不安を隠しきれず、半信半疑で都内某所××トイレへ向かった。

小幡:ほ、ほんとにここでいいのかな……。やっぱトイレって意味わかんないし帰ろっかな……
百舌:ここです。
小幡:!?!?
トイレの方から声がした。
百舌:よくぞ、来てくれました。

小幡:も、もずさんですか……?
百舌:そうです。この度、『ウンメイト』という本を出版した百舌涼一と申します。今日はわざわざベストプレイスまで来てくれてありがとうございます。
(ベストプレイス!?)
小幡:は、はじめまして!本to美女 編集部の小幡です。今回は取材させていただくということでしたが……
百舌:あぁ、すみません。ちょっとおなかが弱くてですね。ここで取材でもいいですか?
小幡:……はい、全然大丈夫ですよ!(もうヤケクソである)
-百舌涼一 Profile-
1980年生まれ。大学卒業後、広告制作会社に就職。コピーライターを生業とする。本作(旧題『アメリカンレモネード』)が第2回本のサナギ賞大賞を受賞し、小説家デビュー。おなかが弱い。
◆広告屋の小説家、現る

人間、不思議なもので5分もその場に居れば慣れてしまうものである。
小幡:それでは早速はじめさせていただきます。そもそも百舌さんは何者なんでしょうか?
百舌:現役でコピーライターをやっている広告屋です。そして初めて書いた小説『ウンメイト』が本のサナギ賞を受賞し出版することができました。
小幡:コピーライターが本業なんですね。もともと小説家になりたかったんですか?
百舌:コピーライター出身の作家さんはたくさんいますが、もともと小説家になりたかったわけじゃないんです。
今までコピーライターをやってきて、今度は「逆張り」をして新たな挑戦をしてみたくなったんです。
小幡:逆張りと言いますと?
百舌:広告は「引き算の文化」なんです。たくさんある情報をそぎ落としてそぎ落としていかに一瞬のコミュニケーションで伝えるか。一方で、小説は「足し算・掛け算の文化」。引き算のコミュニケーションをやっていた自分に長い文章が書けるのか、長文でも周りから評価されるのか、とふと思ったことが始まりなんです。
そこで初めて書いた小説『ウンメイト』でたまたま賞をいただけました。
作家としての使命。「泣ける話は、もう飽きた。」
小幡:『ウンメイト』の帯が「泣ける話は、もう飽きた。」となっています。コピーライターであるご自身がこのワードも考えられたんですか?
百舌:はい、そうです。「楽しい小説」がいいなぁと思いまして。重たい話や泣ける話、考えさせられる話もいいですけど、「もっとラクにハッピー」な話があってもいいんじゃない?という想いがありまして。
小幡:確かに。泣かそうって狙ってる作品ほど冷めちゃうかもしれません。

百舌:本離れとは言われていますが、読者は「おもしろいこと」が嫌いになったわけじゃないと思うんです。むしろ世の中にはコンテンツがあふれています。読まないんじゃなくて、読む機会がなくなってしまっている人が増えているだけだなぁと思っていて。
そういった人達に「帰っておいで~!」と言えるような作品にしたいと思って書きました。
「すごく泣ける」とか「考えさせられる」と言った本は、読書のリハビリにしては重い。「退院した翌日にかつ丼は食わんだろ」って。

小幡:そうですね。本を読まなくなった人に対して、「もっとラクにハッピーな話」を提供することが、百舌さんの作家としての使命なんですね。
百舌:まさにそうなんです。しばらく本を読んでいない人が久しぶりに読む本くらい楽しくてさらっとしたのでもいいよねって。最後読み終えて、「あぁ楽しかった。はい、ポイ」っとしてもらってもかまわない。それでその人が本に戻ってきてくれるなら作家として本望です。
それは突然の出来事だった。

百舌:世の流行が「泣ける話」だったので、逆張りで、かつ隙間隙間を狙って書かせてもらいました。
小幡:それは広告屋的な発想ですね。
百舌:自分が目指せるマーケットのポイントとして、「泣ける話」ではなく「楽しくてハッピーな話」だったんです。「あっ、こういうところ狙って書いてくる新人さんなんだ」と思って覚えてもらおうと。
小幡:なんか、トイレで聞く話にしては真面目すぎる気もしますね(笑)

百舌:うぅ……
小幡:ん?どうされましたか!?


百舌:……

百舌:……はうあぁあああ!!!
小幡:え、ウソでしょ。
小幡:これは、もしや……

あ、、


ああ……

小幡:うわ。もうなんて声かけていいか分からない。
百舌:あ、大丈夫でした。うん。全然平気。
小幡:……。
心配かけさせないでくださいよ!!
百舌:落ち着いてください。こういうときのためにトイレに備わっている特別な機能があるんです。
小幡:特別な機能?

心地よい水のせせらぎが聞こえる。
百舌:音姫です。心が落ち着くでしょう。
小幡:TOTOに謝ってください。それは精神安定用BGMじゃありません。
百舌:えぇ!……恥ずかしいので今の件、水に流してもらっていいですか?

小幡:うまいこと言わなくていいです(笑)
百舌:そんなことより、神様、ちょっと紙を取ってくれませんか。

小幡:神様?
百舌:実は拙書『ウンメイト』でも、トイレットペーパーが切れていて「神様ぁ」となったり、おなかが痛いときに「神様ぁ」と祈っても間に合わなかったりと、「紙の試練」について語っているシーンがあります。特にここを読んでほしいですね、ふふふ。
小幡:え、このタイミングで宣伝ですか!?隙あらば、ぶっこんできますね。
百舌:ばれましたか。広告屋の性なもんで(笑)
で、早く紙をとってくれませんか?
小幡:はい?ほんとに紙がないんですか?
百舌:神に誓ってほんとです。
小幡:……僕がいなかったらどうするつもりだったんですか。



小幡:うーん、これでいいですかね(呆れながら)
百舌:今「うんこ」って言いました?
小幡:……僕もう帰っていいですかね?
新人賞を取りやすいのは、○○の話。
さ、水に流して取材の続きを。
小幡:今回新人賞を受賞されて『ウンメイト』を出版されたということで、先ほどもちらっとお聞きしましたが、どういった内容なんですか?
百舌:よくぞ、聞いてくれました。

小幡:うわ!なんか下から出てきた。

百舌:おなかの弱い主人公ゲーリーが腹痛で電車を途中下車し、トイレに駆け込むところから物語が始まります。その駆け込んだトイレで眠っていた謎の美女ナタリーと出逢い、いきなりゲーリーと名付けられ……。酔うと記憶を無くす破天荒なナタリーに、運命の人を探してほしいと頼まれ、いきつけのバー「おととい」で次々とごたごたに巻き込まれていくゲーリー……。

百舌:この主人公ゲーリーの体質がまさに私そのもので、トイレがないというだけで落ち着かなくなるほどなんです。
小幡:あ、だからトイレで取材なんですね! あと主人公の名前ひどいです。
百舌:はい。長時間の取材もトイレなら安心。
この本も是非、書店のトイレ付近の棚とかに置いてほしいです。
小幡:どうしてトイレの物語を作ろうと?
百舌:はい。正直言いますと、賞に出す前にどんな作品が賞をとれるか、という分析をしまして。

小幡:え、そうなんですか?
百舌:小説で賞を取った人は数多いますが、お笑いという自分の周りの世界のことを書いた又吉さんが最近では一番いい例で。自分のフィールドで書いたものは新人賞を取りやすい傾向にあると思います。学生が書くなら高校生の話。親と不仲なら家族の話とか。
百舌:処女作から自分の知らない世界を知ったかぶりで書いてもおもしろくはなりません。そして知ったかぶりは必ず審査員にみすかされるし、もちろん読者にも届かない。ネタがないから自分のことを書くというよりは、自分の世界を書いた方が、新人賞を取りやすいという分析のもと書きました。
小幡:なるほど。ここでもしっかりとマーケティングされた上での判断だったんですね。
百舌:今回『ウンメイト』も、自分の内面をそのまま主人公にしようとして、おなかが弱いという主人公と、ヒロインには酔うと記憶を無くすという自分の欠点を二分割にして書きました。その方がキャラを深堀りできるし、破綻もないかなと。
本のリハビリ、ただいま本
小幡:『ウンメイト』をまだ読んでいない人にメッセージはありますでしょうか?
百舌:1ページ目を読んでもらえれば、タイトルの意味はわかると思いますが、かといってお下品な表現が出てくるわけでも、引くような話が出てくるわけではないので、女性にも楽しんでもらえるはずです。
本を久しぶりに手に取る人のリハビリになるような。本の世界への「ただいま本」として楽しんでもらえればなぁと思っています。
小幡:素敵なメッセージありがとうございます。
さあ、取材も終わりましたし、早くトイレから出てきてくださいよ!まだお顔も拝見できていないので。

百舌:そうでしたね。それでは、そろそろ出るとしますか。



小幡:おおお、ついにご対面!今日は取材ありがとうございました!

百舌:こちらこそわざわざベストプレイス(訳:トイレ)まで来てくれてありがとうございました。楽しかったです!



小幡:いや、ちょっと待ってください。先に手を洗ってもらってもいいですか?

百舌:……
小幡:すみません(笑)


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「新人賞は、自分の世界に持ち込んで戦う」
「泣ける話は、もう飽きた」
「本のリハビリ、ただいま本を届けたい」
いきなりトイレに呼び出された世にも奇妙なトイレ対談。一時はどうなるかと思ったけれど、取材終わりの百舌さんの手を洗う姿はなんだか少し輝いて見えた。
いや。
気のせいか。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
おしまい。

ウンメイト
- 著者:百舌涼一
- 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日:2016/6/16
(文・森井悠太 / 企画・小幡道啓)
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