6次元ナカムラクニオが考える ソーシャルネットワーク時代のミニマルメディア論

東京・荻窪にある不思議な茶室のような空間……「6次元」。
世界中から特別ゲストを招き講演会、読書会、朗読会、小説講座、金継ぎワークショップなど毎晩のようにイベントを開催され多くの人がこの場所を訪れる。

神社とお寺と中央線に囲まれた三角地帯にあり、魔界のような雰囲気が漂う6次元。ここは毎年、村上春樹ノーベル文学賞発表の中継場所になっていることで
も有名だ。一年中、全世界からファンや文学研究者が訪れ、発表当日は200名以上のマスコミ関係者が殺到する。

マスではなく「ミニマルなメディア」を作りたかった。

最近までNHKの国際局でディレクターとして働いていたナカムラクニオさんは、そう語る。
なぜ、小さなビルの1階と1/2階にある、この狭い空間に人が集まるのか?
SNSの時代だからこそ生まれた、新しいメディアのあり方について聞いてみた。

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ナカムラクニオ (Kunimo Nakamura) ブックカフェ『6次元』店主/映像ディレクター。著書は『人が集まる「つなぎ場」のつくり方』『さんぽで感じる村上春樹』責任編集短編小説集『ブックトープ山形』『パラレルキャリア』など。『+DESIGNING』、『イラストレーション』など雑誌も連載。移動書店『7次元』や『交換図書館』なども全国で実験的に運営している。

世界中のハルキストが殺到する理由とは?

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7年前からノーベル文学賞発表の中継が世界中に放送されるようになって、
熱狂的な村上春樹のファンが6次元に訪れるようになりました。今では各国の村上文学の翻訳者のみなさんも来てくれるようになり、一緒に仕事もしています。村上春樹の研究本を出版したり、村上春樹を特集した番組の演出もしています。

元々は、ディレクター時代の同僚に頼まれて、ノーベル文学賞の中継を始めたんですけど、フィクションが現実になるみたいに、あっという間に広がって、翌年からは世界中から取材が殺到するようになったんです。

今では、チベット、モンゴル、サウジアラビア、ロシアなどからも熱狂的な村上春樹ファンが来てくれます。先日もポーランドの小説家と一緒に小説を作るワークショップを開催しましたし、村上作品の英語版翻訳者ジェイ・ルービンの講演会なども企画しています。
夏休みになると、1日30人もの外国人観光客がやってきます。
三鷹のジブリ美術館と荻窪の6次元は、東京の観光名所になっている感じです。

外国のファンの方と話していると、日本と世界の村上春樹に対する捉え方も違っていると気づかされます。
海外ではふたつのMと呼ばれていて、マンガ(MANGA)と
村上春樹(MURAKAMI)が日本のコンテンツとして有名です。

日本では村上春樹作品は、ポップで軽いものと評価されていますが、
海外では純文学。
これまで世界中の村上ファンにインタビューをしていますが、本当に
世界中の人が村上春樹のノーベル賞受賞を望んでいることがわかります。

嫉妬もあるんでしょうが、日本のメディアだけが村上春樹に対して、軽い取り上げ方をしているような印象を受けます。
彼に対する評価は、日本と世界でギャップが大きいと思います。

人は見たいものしか見ない

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メディアの切り取られ方って、本当に面白いなと思うんです。

6次元では毎日のように、いろんなイベントをやっていますが、テレビだけを見て「村上春樹カフェ」だと思っている人が多くて、情報が一人歩きしているような印象を受けます。
自分では、6次元をそんな風に考えたことが一度もありません。

村上春樹関係のイベントは全体のほんの一部。
それでも、ハルキストが集まるカフェとして面白い部分だけネットやテレビで広がっていきます。
みんなどこにもない幻想を追いかけている感じですね。

でも最近は、自分が考えていることとみんなが勘違いするもののギャップが大きくて、それはそれで面白いなと思います。

小説家講座などをやっていると、講演を頼まれたりするわけですけど、テレビの演出家である僕が「文芸評論家」っていう肩書きでいいか? なんて言われるんです。人はそうあってほしいと勝手に決めつけるんだなと。今では、多いときでは月20回くらいイベントや講演に誘われますが、文学や本に関するテーマで話をすることが多く、それも不思議な現象です。まったく本質とは違います。

人って本当に見たいものしか見えないんだと思います。

テレビやネットは、基本的に「伝言ゲーム」です。
誰かが言ったことを、面白い部分だけ切り取って流していく。
その繰り返しです。

村上春樹の話題も、伝言ゲームが続いて、幻想が一人歩きして本を買う人が殺到しているという側面があるかもしれませんね。
彼に対し批判的なことを言う人も、本を読んでいなかったりするので、
勝手に誤解だけが広がっていきます。

それがまた面白いと思うんです。
メディアって本当に不思議な生き物みたいな存在です。

人が勝手に誤解していって、気づいたらその誤解が現実になっていく。
それこそ、村上春樹の小説のように現実か幻想かわからなくなっていく感じとも似ています。
世界はこんな風にして奇妙な「誤解の循環」を繰り返しながら回っているんだと思います。

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まるで夢の国に迷い込んだような6次元の店内。

アンティークや貴重な美術品が飾られ独特な雰囲気が漂っている。

6次元を作った理由

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約20年間、テレビのディレクターをしていたんですが、仕事が激務で、だいぶ無茶苦茶な環境で働いていました。
半年に一日くらいしか休みがなかったですが、それでも楽しかったですよ。

でも30歳後半になってくると自分より若いディレクターやプロデューサーが出てきて、番組制作のような下請け会社だと、いくら頑張ってもテレビ局員より出世できないので、このまま続けてもしんどいなと思ったんです。

ここ数年はNHKワールドで全世界向けの旅番組を演出していたんですけど、
いつか小さなメディアを自分で立ち上げて、勝負してみたいと思うようになりました。それがマスに対抗する「ミニマルメディア」です。

小さなメディアで、どんな大きなことができるのか? 

そんなことをずっと考えていきました。今は「共有」と「共鳴」の時代です。
パリやニューヨークなどにあるような「文化を発信するカフェ」というイメージでお店をスタートさせました。とにかく自分の好きなことをやろうと思い、思い切って会社を辞めて荻窪に6次元をオープンしました。

テレビ時代の経験を活かした6次元のトークイベント

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一般的にトークイベントは主催者の話を聞くだけですが、6次元では、常にインタラクティブです。2時間なら半分は主催者が話して、残りは参加者に好きに語り合ってもらうんです。

人は、他人の話を聞くのに2000円は高く感じるんですけど、
2000円で自分のことを聞いてもらえるなら安く感じます。

6次元では、〇〇ナイトと題して、金継ぎや小説のワークショップ、校正の講座、お茶会など、毎日のようにイベントをやっていますが、ツイッターで告知しただけで、予約が埋まります。自分も参加したり、主催したいと思っている人も多いと思います。つねに「メジャー」よりも「マニアック」、「大人数」より「少人数」を意識しています。

僕は、テレビの世界に20年もいたので、その経験を最大限に活かしています。

6次元のイベントは、スタジオ収録だと思っています。

店の内装もわざと美術セットのように飾り付けして空間演出しています。
看板は出さず、メニューも電話もありません。そのほうがドキドキするからです。本の並び方も少し雑にしたほうが、怪しい感じがしてときめきを感じます。

そして、お客さんが中に入ってきたら、前説で場を和ませます。
毎回、お客さんに合わせて空間をアレンジしていきます。

何と言ってもイベントは始まる前が勝負。
テレビの収録とよく似てますね。

わかりやすく言うと6次元を「文化の発祥基地」のようにしたいと思っています。「ふなっしー」の最初のイベントもここだったし、6次元からデビューした作家さんも沢山います。既製のものを売買する時代から「いっしょに新しいカルチャーをつくること」がビジネスになる時代が突入していると思います。
「100万人より100人」の心に突き刺さるようなものを大切にすることを心がけています。

みんな、謎めいたものを求めている

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実はみんな、現実逃避ができる場所を求めているのかもしれません。
いつも「解けない謎」を探しているんです。

村上春樹さんの小説も現実なのか幻想なのかわからなくなり、永遠に解けない謎を読み解くのが面白い。
いくら話し合っても答えが出ない……そこが一番面白いんです。

6次元はこれからもっと隠れ家みたいにしたいと思っています。
どこにも看板がなく、電話もメニューもない。もはや、どこでもない空き地のような秘密の隠れ家。カメレオンのように常に変化し続け、それでもなぜか世界中からたくさんの人々が訪れるような不思議な空間を目指しています。

少し時間が空いたからイベントに行こうという文化は、数年前では考えられなかったと思います。SNSが普及した今だからこそ出来る「新しい情報の発信」が出来たら面白いと思っています。
時空が歪んだ6次元のような空間で、自分のことを話し、伝え、新たな文化が生まれていく。こんな茶室のような小さな空間から、どんな未来が生まれるか楽しみです。

編集後記

ナカムラさんのメディアへの視点が独特で面白かった。
人は自分が見たいものしか見れない。

面白い部分だけが切り取られて、情報が一人歩きしていく。
自分の考えと周囲が求めているものとのギャップが広がっていくのも、
それはそれで面白いのだと。

マスコミに流れた情報を人々は追い求め、幻想だけが広がっていく。
世界はこんな風にして回っているんだと思い、とても興味深かった。

文化発祥の地として、これからも6次元から新しいメディアや文化が生まれていくのが楽しみだ。

(記事 菊地功祐 /カメラマン 村井優一郎)

 

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WRITERこの記事を書いた人

kikuchan

6月9日(ロックな日)生まれ。 映像制作会社勤務。TSUTAYAから年賀状が届くほどの映画マニア。年間350本の映画鑑賞。 「映画ばかり見てないで、勉強しなさい」と言われて育つ。 学生時代は映画の新人賞受賞。文学だけでなく、あらゆる本を読むようにしてます。 好きな本:『竜馬がゆく』『スティーブ・ジョブズ』 趣味:座禅