こころで弓を引け。『日本の弓術』

日本の弓術

  • 著者:オイゲン・ヘリゲル
  • 出版社:岩波書店
  • 発売日:1982/10/16

 

「無になってしまわなければならないと言われるが、それではだれが射るのですか?」
ドイツの学者オイゲン・ヘリゲルは弓術の師にこう問いました。

東北帝国大学に赴任したヘリゲルは、日本の文化を学ぼうと弓術の稽古を始めます。
祖国ドイツでは射撃の経験があり、弓も容易に思えるも……まったくの想定外。
はじめは弓すら引けませんでした。そんなヘリゲルをみて弓術の師阿波先生は、力で引くのではなく心で引くことの重要性を唱えます。

一切の心の迷いを払いのけ、弓を意識的に引くのではなく、無になって弓を射る。
合理的・論理的な西洋の精神は、非合理的・直感的な日本の精神に戸惑います。

この本は弓術を極め、禅の精神の会得に努めたドイツ人の奮闘記でもあり、日本の精神の根幹を知れる良書です。合理的な西洋の考えが、いかに直感的な日本の精神に近づけたのかを冷静に分析し、祖国ドイツの人にわかりやすく伝えている。

そして、スポーツ経験者なら一度は経験があるはず。無我夢中になれた瞬間にシュートが決まったりすることを。こころに迷いが生まれた瞬間に相手に倒されてしまうことを……。

スラムダンクの三井だって無心でスリーポイントを決めていました。

日本の伝統芸能になじみのない日本人も、外国人が冷静にわかりやすく論理的に書かれたこの本を読めば、日本の精神の源泉やスポーツ精神に通じるものを知ることになります。

理屈ではわからない禅の精神

Tsuda_1

精神的なものは理屈では到底計り知れない。無心になり、正しい呼吸とともに弓が自然と放たれるのを待つ。無になれたら、自ずと的が自分の方に近づいてくる。弓を射るということは、的を射るのではなく、自分自身を射ることと阿波先生はヘリゲルに伝える。

理屈で考える癖のあるドイツ人学者は困惑するしかなかったでしょう。
はじめはヘリゲルも技術的に弓を射ようと、師匠の射方を真似していきます。手の痛みは減るも、的にはなかなか当たらない。技術的に解決するのは不可能なことを感じます。

スポーツ経験者なら一度は無我夢中に、無心になって試合をした経験があるはずです。
サッカーでもバスケでもシュートを決める時には一切の心の迷いが生まれない。少しでも心に考えが浮かんだらシュートを外してしまう。
スポーツの精神の根幹にあるのは、実は禅的な考え方であったりするのです。無心になり、宇宙と一体化する。自分の意識で射ようとするのではなく、無意識のうちに自然と射るのを待つ。

イチローも毎日カレーを食べ、同じ時間に規則的な生活を送っているそうです。ルーティーンを決め、規則的な生活をしていると、いざという時に無心になれる。五郎丸選手もルーティーンを持っていますね。ルーティーンをすることで心を無にし、集中力を高めるのです。こころを無にして、無意識の境地に達する……これが禅の精神です。

師匠のすごさ

Tsuda_2

「的を狙わずにして、射ること」をどうしても理解できなかったヘリゲルは苦心していました。そんなヘリゲルを見て、阿波先生は夜中、稽古室に呼び出します。
真っ暗闇のなか、弓を構える阿波先生。第一の矢が放たれる。見事命中。
そして、第二の矢が放たれました。ヘリゲルは驚いた。第二の矢は第一の矢に当たり、矢を真っふたつに裂いていたのです。

30年も稽古しているから、暗闇のなかでも第一の矢は当たるかも知れない。
しかし、第二の矢はどう説明できようか。
「わたしから出たのでもなければ、わたしから射たのでもない」
無心になり、仏陀のまえに座っている時と同じ気持ちになる。意識的に無になろうとするのではなく、自然と弓が射るのを待つ。弓術を極めた阿波先生にしかできない業であった。

一流のスポーツ選手はみなルーティーンを持っている。五郎丸、イチロー選手をはじめ、シュートの前には無心になり、自然とシュートが放たれるのを待つ。意識的ではなく、無意識のうちに行われる行為です。無になってしまわなければ見えてこない境地があることをヘリゲルは阿波先生から学んだのではないでしょうか。
長年の鍛錬の末、無の境地に達した瞬間に訪れる一流の証。スポーツ精神の根幹にもあった禅の精神を知れる良書です。

<合わせて読みたい>


弓と禅
こちらも同じ著者による本。「日本の弓術」よりも少し厚く、より詳しく阿波先生との交流が描かれている。

あなたの悩みを解決する3ヶ条

  1. できない理由を考える前に理屈を捨てて、無心になる。
  2. 何事も勝負の時には一時間、深呼吸をして心を整える。心を整えないと無心になれない。
  3. 精神を整える。心を無にして試合に挑む。

日本の弓術

    • 著者:オイゲン・ヘリゲル
    • 出版社:岩波書店
    • 発売日:1982/10/16

モデルプロフィール

Tsuda_profile

名前:津田優紀子
生年月日:1996/03/15
出身地:東京都
職業:学生
趣味:海外旅行

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

本to美女選書

WRITERこの記事を書いた人

kikuchan

6月9日(ロックな日)生まれ。 映像制作会社勤務。TSUTAYAから年賀状が届くほどの映画マニア。年間350本の映画鑑賞。 「映画ばかり見てないで、勉強しなさい」と言われて育つ。 学生時代は映画の新人賞受賞。文学だけでなく、あらゆる本を読むようにしてます。 好きな本:『竜馬がゆく』『スティーブ・ジョブズ』 趣味:座禅