「戦争は犯罪」で終わってはいけない『私は貝になりたい』

私は貝になりたい

  • 著者:加藤 哲太郎
  • 出版社:春秋社
  • 発売日:1994/10/25

今週のテーマは「戦争」。 最終回の今日も、「戦争裁判」や「靖国問題」といった、若い世代の方々には、あまり聞き慣れない話題だと思います

ライターのも今、20代。

今の日本の豊かな暮らしの中で過ごしていると、約70年前まで戦争をしていたなんて、なかなか想像できませんよね。当時の人々がどんな気持ちで過ごされていたのか知りたいと思った私は、30人以上の方から「戦争体験」を聞いてきました。

考えるのが億劫な話題かもしれませんが、
「この1週間だけでいいので、70年前の戦争について考えてもらいたい」、そんな思いで文字をつづっています。

戦後、裁かれた人たちがいた

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近現代では、大きな戦争が終わると「裁判」が開かれることがあります。戦勝国が敗戦国を裁く裁判です。

第二次世界大戦で降伏した日本。戦争が終わると、連合国によって世界中で軍事法廷が開かれ、「戦争犯罪」を犯した日本人が裁かれました

代表的なのは「東京裁判(トウキョウプリズン)」です。正式名称は極東国際軍事裁判といいます。ここでは、東条英機や板垣征四郎を始めとする戦時中の代表的指導者がA級戦犯として有罪判決を受けました。

「戦争裁判」で裁かれた人の一人に、加藤哲太郎さんがいます。今回ご紹介する『私は貝になりたい』の筆者です

生まれ変わるなら、貝になりたい

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元陸軍中尉で、新潟の東京捕虜収容所で所長を務めていた加藤さんは、戦後、俘虜(捕虜として捕まり、収容所に入れられた人々)の虐待と殺害の罪に問われます。そして、横浜で開かれたBC級戦犯法廷で絞首刑の判決を受けます

一時は絞首刑を宣告された加藤さんでしたが、家族や加藤さんを慕う元俘虜たちの協力で、終身刑に減刑されることになりました。その後、残りの刑期も免除されることになり、1958年に出所します。

加藤さんは、巣鴨拘置所に服役中、匿名で文章を発表していました。1952年には、岩波書店に『狂える戦犯死刑囚』というタイトルの文章を寄稿します。

『狂える戦犯死刑囚』は、志村郁夫というペンネームを使った創作で、赤木曹長という架空の人物の遺書が登場します。
その遺書が、ドラマや映画の『私は貝になりたい』の原型となりました。最近は、2008年にSMAPの中居正弘さん主演で映画化されています。

この創作の主人公、俘虜収容所の衛星下士官の「赤木」は、「部所の俘虜が病死したのは、赤木が薬をやらずに故意に殺したからだ」とされ、戦争裁判で絞首刑を宣告されます。死刑執行まであと24時間を切る中、留置所の中で遺書をしたためるという設定です

こんど生まれかわるならば、私は日本人になりたくはありません。いや、私は人間になりたくありません。牛や馬にも生まれません、人間にいじめられますから。

国の命令で徴兵され、上司の命令を守っていただけなのに、戦後は犯罪人と呼ばれ、死刑を宣告された赤木。「こんな絶望を味わうくらいなら、二度と人間には生まれたくない」と思ったのでしょう。そして、このように続けます。

どうしても生まれかわらねばならないのなら、私は貝になりたいと思います。
貝ならば海の深い岩にヘバリついて何の心配もありませんから。何も知らないから、悲しくも嬉しくもないし、痛くも痒くもありません。頭が痛くなる事もないし、兵隊にとられることもない。戦争もない。
妻や子供を心配することもないし、どうしても生まれかわらなければならないのなら、私は貝に生まれるつもりです

——貝に生まれたい。海の中、何も考えずに、たゆたうだけの一生でいい。

そう思わせた「戦争」は本当に怖いものだと、この一節を見て思います。

第二次世界大戦終戦後、日本の「戦争裁判」によって死刑になった方は、約1000人いるとされています。「赤木曹長」の遺書は創作ですが、一時は絞首刑を宣告された筆者の加藤さんは、無念の死を遂げた人たちの気持ちを代弁しようとしたのではないでしょうか。

「A級戦犯って何?」「靖国参拝はどうして注目されるの?」

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「A級戦犯」「BC級戦犯」という言葉を、一度は聞いたことがあると思います。「A、B、Cの順に罪が重い」と勘違いをしている方が多いですが、ABCは罪の「重さ」のランク分けではなく、罪の「種類」を分けたものなのです

「A級戦犯」とは、A項「平和に対する罪」を犯すこと。そして、「BC戦犯」とは、B項「通例の戦争犯罪」(戦時国際法の違反)、C項「人道に対する罪」(大量殺人、奴隷化などの非人道的行為)を犯すことです。

ここで注目すべきは、A項「平和に対する罪」が、第二次世界大戦後に作られた全く新しい戦争犯罪の概念だったことです。戦争において非人道的な行為を行うことは罪であっても、「戦争は罪である」とする国際法はありませんでした。実は、現在も、全ての戦争を禁止している国際法はありません

「A級戦犯という概念は法律上無効だ」と考える人たちもいます。根拠は、刑法の「法の遡及の禁止」という原則です。「法の遡及の禁止」とは、「法律が決まる前の行為を、法律ができた後に遡り、違法として裁くことを禁止する」という意味です。戦時中は、戦争をする事自体は罪ではありませんでした。その為、「A級戦犯は法の遡及の禁止に反しているから無効である」と主張しているのです。

この問題が体現化されたのが、「靖国問題」です

「A級戦犯は戦争犯罪者ではない」という立場をとる靖国神社では、A級戦犯として死刑を受けた日本人の何人かが「国家の殉職者」として祀られています。

靖国神社は国家の機関ではなく、宗教法人ですから、靖国神社を参拝するかどうかは「個人の信仰の自由」です。
とはいえ、靖国神社の長い歴史性や存在の大きさから、国家の指導者が参拝するかどうかが、世界中から注目されます。特に、中国や韓国は、靖国参拝に関して敏感です。国内でも、賛否両論分かれている問題です。

戦争は犯罪か

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「戦争は犯罪だからやってはいけない」。それは当たり前のことのように聞こえます。もちろん戦争は無い方が良いに決まっていますが、「このように単純化してしまうことは、実は、とても危険である」と筆者の加藤さんは警鐘を鳴らします。

加藤さんは、「戦争は侵略戦争という意味では犯罪だ」と認めながらも、「罪を戦争だけに負わせて、完結化してはならない」と言います。なぜなら、戦争が犯罪を犯すのではなく、戦争に参加した人間が犯罪を犯しているからです

だから罪は戦争にあるのではなく、戦争に参加した各人にある。人殺しが犯罪であることは当然だ。戦争はイコール殺人そのものではないとしても、殺人のともなわない戦争は考えられない。こう考えれば、戦争は犯罪であるといくら叫んだとしても、それはトートロジー(同語反復)ではないだろうか。

戦争が犯罪だと完結化してしまえば、「あの時戦争だったから仕方が無かったんだ」と自分の罪を「知らん顔」する人たちがでてきます。戦争は確かにいけないことです。二度と繰り返してはなりません。
しかし、「戦争を犯罪」にしてはいけない。そうしないと、同じ過ちが繰り返されてしまう。と加藤さんは心配しているのです。

戦争は犯罪であるとして、あとは知らん顔をしたならば、ずいぶん変なことになってしまう。そんな便利な言葉で自分の良心をごまかすことができれば恐ろしいことだ。
戦争は犯罪である、ということは戦争だからどんな悪いことをしても仕方がない、ということに通じている。そうだ戦争は犯罪である、だから自分が戦争であんなことをしたのは仕方がなかったというより以上には考えない、あるいは考えようと欲しない人たちは、またいつの日か、強制されて軍隊にとられたら、また同じ過ちをくりかえさないだろうか、大きな疑いが持たれる、いな、恐らく、その人はまた同じ過失をくりかえすに相違ない

私たちは、「戦争は悪いこと。二度と繰り返してはならない」と小学校から教えられてきました。

そこから一歩踏み出して、「なぜ戦争は悪なのか」、「どうして戦争が起きたのか」、「なんで負けたのか」、「当時の人たちはどういう思いを抱えていたのか」まで考えて欲しいと、筆者の加藤さんは訴えているのです。

私は貝になりたい

  • 著者:加藤 哲太郎
  • 出版社:春秋社
  • 発売日:1994/10/25

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  • 著者:日暮 吉延
  • 出版社:講談社
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「東京裁判から60年。ようやく〈事実〉に基づく、冷静かつ実証的な研究がなされる時代がきたとの感に打たれた。〈歴史〉が待ち望んでいた書だ。」――保坂正康(ノンフィクション作家)

東京裁判は「国際政治」の産物以上のものではない。イデオロギーを排し、徹底的な実証と醒めた認識で「文明の裁き」と「勝者の報復」をめぐっての不毛な論争にいまこそ終止符を打つ。

モデルプロフィール

kobayashi_profile

名前:小林美咲
生年月日:1992/7/7
出身地:千葉県
職業:アパレル販売員
受賞歴:with girls スターメンバー
趣味・一言:料理、一眼レフカメラ、囲碁
最近の悩み:地図を読むのが下手
Twitter:@07misaki_k
blog:http://withonline.jp/withgirls/members/withgirls1199 Insta:07misaki_k
カメラマン:坂本

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本to美女選書

WRITERこの記事を書いた人

湯川 うらら

本to美女編集長 湯川うらら 麗らかな春の日に生まれました。「一瞬一瞬を全力で」がモットーの、本to美女編集長/インタビュアー/キャトグラファー。著者の半生から学び、登場人物の人生を味わい尽くす……「本」は、人類と共に時代を紡いできました。週1回はブックカフェに通い、気になる本を味見するのが楽しみ。実用書から漫画まで、守備範囲は幅広い。色々な人の話を聞いて、人生を豊かにしたい、誰かを幸せにしたい。 猫の島へ単独潜入するほど、生粋の猫好きで、SNSはネコ写真でいっぱい。一年中もふもふしていたい。