あなたも道草してみませんか?『植物図鑑』

植物図鑑

  • 著者:有川 浩
  • 出版社:幻冬舎文庫
  • 発売日:2013/1/11

 

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です」思わず拾った家事万能、重度の植物オタクでイケメンな「イツキ」と、不器用で独り身の「さやか」が週末ごとにご近所で「狩り」に行く道草恋愛小説。
さやかは実に女の子らしい。自分の性格や強さを犠牲にすることなく自分の女の子らしさを心底から受け入れている。さやか視点のこの物語は、きどってなく女子の思うままに描かれる。
この物語からは「らしさ」が溢れている。どういうことだろうか。物語を追ってみる。

週末は「狩り」へ

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強烈な一言から始まった同居生活。行き倒れのイツキを一晩泊めてやり、一泊の礼にとり合わせの材料で作った彼の朝食に胃袋を鷲掴みにされ、イツキが家事手伝いとして居候する契約が成立する。
イツキと会う前は、まったく自炊せずコンビニ弁当などで食いつないでいたさやか。誰かが作った料理は独り身には染みたのだろう。最近では行きつけの居酒屋にすら足が運ばない。誰かが居るだけで暖かく感じてしまう自分を受け入れ、日々をイツキと一緒に楽しく彩ろうとする。

週末になったら、河原に散歩に行き二人で山菜を摘み取る「狩り」をする。食卓の材料はこの山菜をメインにいただく。道端の植物を摘み、料(りょう)ることで色々な植物をさやかは知ることになり、一つ一つの植物にイツキとの思い出が詰まっていく。気づけば、狩りがさやかの一番の楽しみになっていた。
前半は、道草を料る二人の暖かく優しい雰囲気が溢れている。作者曰く、「過去最強に恥ずかしかった」とのこと。

道端の雑草に触れる機会や自炊なんてしてこなかった彼女には、新しい発見が多くその度に女の子らしい反応をする描写がある。女性が読めば初々しい女の子らしさが思い出されるかもしれない。
(※余談だが、巻末にイツキが調理した道草料理レシピが載っている。是非お試しあれ。)

部屋には一筆箋が一枚。「ごめん。またいつか」

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しかし、甘い日常生活はいつまでも続かない。
名前しか知らないイツキとの奇妙な同居生活に突然幕が降りた。

部屋には、イツキの物はなく、机に一筆箋が一枚。「ごめん。またいつか」

物語はここからほろ苦くなる。「またいつか」を頼りに待ち続けるさやか。狩りで見覚えのある植物を見ただけで、イツキとの思い出がよみがえってくる。思いが溢れてしまう。涙が溢れ出てしまう。誰かがいなくなるとこんなにも弱くなってしまうのか。

思いを噛み締め、さやかは週末にイツキと行った同じ場所に狩りに行く。一筆箋と共に、今までイツキが料理してきたレシピノートがあった。レシピ通りになんて上手くいかず不格好ながら料理ができる。ノートを見ながら、「ねぇ、今どこにいるの?あたしはここにいるよ。イツキと去年出かけた場所を、季節の順に回ってるよ」と口から漏れる。帰ってっくるかもわかない彼を待ち、今日もさやかは一人でイツキと過ごした季節を巡る。

イツキがいなくなって、泣きじゃくる彼女は実に女の子らしい。だが同時に、女性らしくもあると言えよう。「またいつか」にすがり一途に彼を待ちながらも、他人には何事もなかったかの様に凛として気高く振る舞う。さやかは女の子であり、女性である。後半では、時間のかけがえのなさと彼女の女の子、女性らしさが窺える。女の子らしさは素直であり、女性らしさとは気丈であること。
今のさやかは二つの側面を持っているのだ。

「らしく」輝く

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恋人と離れ離れになったら、普通ならヒステリックになり当たり散らすかもしれない。だが、彼女は落ち込むだけではなく、泣きながらも姿勢を正し、前を向いた。
なんとも、素直ではないか。

輝くには「らしく」なのだ。

さやかのらしくは、自分に素直なこと。美しいものは「きれい」、汚れているものは「汚い」と。素直な感想を他人に疎まれようが気にしない。彼女は飾らないのだ。
誰かがいれば、見方が変わる。その人の影響により価値観がかわって自分らしさが変わったとしても、それも自分らしいと思えるのではないか。飾らず自分らしくいれば、それだけで充実する。そんなことを思わせる小説であった。変えられない大切があるから、変わりゆく生活が楽しい。あなたらしくいれば、日々は輝くだろう。

植物図鑑

  • 著者:有川 浩
  • 出版社:幻冬舎文庫
  • 発売日:2013/1/11

モデルプロフィール

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  • 名前:戸川知亜美
  • 生年月日:1995/11/22
  • 出身地:東京都
  • 職業:慶應義塾大学
  • 受賞歴:小学館ミス関東2016 グランプリ CAMPUS COLLECTION TOKYOモデル
  • 趣味・一言:競技ダンス 茶道
  • Twitter:@turfluss

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

タバオ

大学受験に失敗し、1年浪人するも不合格。コンビニ、土方、ヒーローショウ、環境調査隊、家電量販店のアルバイトを経験するが、やがてはニートにまで落ちる。だが、失うものがないからこそ、開き直れる! 高卒だっていいじゃない。ニートだったからって何なのさ! よく読むのは、歴史小説と漫画。好きな歴史小説『播磨灘物語』、漫画『NHKにようこそ!』。