海を漂う孤独な船『生まれ出づる悩み』

この世の中に、自分のやりたいことを全うする素晴らしい人生を送れている人が果たしてどれくらいいるだろう。きっと、一握りもいないのである。それが現実である。

それでは、その現実を受け止め納得して人生を生きる人がどれほどいるだろう。大人になるということは現実を受け入れることだ、なんて話も聞いたことがある。大抵の大人たちは、仕方がないと割り切り、現実を受け入れて日々を生きている。

だが、その現実を受け入れるに受け入れられず悩む人がいる。子供だ、と笑うだろうか。胸に手を当てて考えて見てほしい。きっと、大人たちの心に眠る悩みの種が疼きだし、今にも芽を出すに違いない。子供が持ち得ない、大人だけの悩みなのである。

そんな大人たちの心に寄り添ってくれる物語が、「生まれいずる悩み」だ。

生れ出づる悩み

  • 著者:有島武郎
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2009/6/26

 

この物語は、絵描きになりたいと願う心と、そうすることのできない漁師としての現実との間で揺れ動く「君」の物語である。小説家である書き手が「君」のことを想いながら綴った文章という形式で物語は展開される。

「君」の家庭は裕福ではなく、むしろ貧乏で、生活に余裕などない。日々を必死に食らいつくようにして生きている。当然、彼が漁師として働かなければやっていけないのである。

しかし、彼は絵を描くことが好きであった。絵描きになりたいという望みを捨てきれないでいた。

周りの人々はみんな、その運命を受け入れている。自分も、生きるためには仕方がないことだ、と受け入れなければならないのをわかっていながら、望みを捨てられない。悩みながら日々を生きていた。

「絵がかきたい」 君は寝ても起きても祈りのようにこの一つの望みを胸の奥深く大事にかきいだいているのだ。その望みをふり捨ててしまえる事なら世の中は簡単なのだ。

「みんなはあれほど心から満足して今日今日を暮らしているのに、おれだけはまるで陰謀でもたくらんでいるように始終暗い心をしていなければならないのだ。どうすればこの苦しさこのさびしさから救われるのだろう」

胸の奥底で何かが疼くように感じた人が、きっとたくさんいたはずである。彼の苦しみを分かち合える人が、きっとたくさんいたはずである。

子供の頃、私たちはこんな悩みとは無縁であった。

親、学校、あらゆる大人たちの監視下に置かれてはいたが、私たちはその下で自由に、素直に自らの心に従うことができた。

ところが、大人になったら、どうだろう。

満足のいかないことばかりだ。

何も「君」のように職業の夢とは限らない。ふとした日常に、大人の悲しみは転がっている。

朝、起きて、ああ、今日はいい天気だから海にでも行きたいな、なんて思ったとしても、仕事というどうにもできない壁が立ちはだかる。純粋に、自分の心に従って行動することができない。

大人たちの心は今にも崩れそうなのだ。

だから、多くの人が悩むことをやめて、現実を受け入れる。

彼らがそれを意識せず、生きるという事はすべてこうしたものだとあきらめをつけて、疑いもせず、不平も言わず、自分のために、自分の養わなければならない親や妻や子のために、毎日毎日板子一枚の下は地獄のような境界に身を放げ出して、せっせと骨身を惜しまず働く姿はほんとうに悲壮だ。そして惨めだ。なんだって人間というものはこんなしがない苦労をして生きて行かなければならないのだろう。

人生はどうしたって悲しく見えてしまうことがある。特に、金を稼ぐために、やりたくもない仕事に就いて必死に働いているときなんかは、自らの人生が滑稽に見えて仕方ないだろう。

私たちの人生とは一体なんなんだろう。やりたいことをやれずに生きて、何が面白いのだろう。

暗闇の中、静かにうねる海を漂う、孤独な船みたいだ。どこへ向かうでもなく、ただ、波に身を任せ、やがては闇へと消えていく。

 

私たちは、生きていく上で、数え切れないほどの世の中の不条理にぶつかることになる。

その度に、悩むべきなのだ。自分の心に、満足しているか問いかけてみるべきなのである。

私は、この本を読んで、ひとつわかった。生きるということは、悩むということだ。悩みのない人など一人もいないのである。

すべての悩んでいる大人たちへ。大丈夫だ。君たちの悩みは、君たちひとりのものでは決してない。同じ悩みを抱えている人たちがたくさんいる。この物語の「君」のように。だから、安心して悩んでいいのである。

そして僕は、同時に、この地球の上のそこここに君と同じ疑いと悩みとを持って苦しんでいる人々の上に最上の道が開けよかしと祈るものだ。

生れ出づる悩み

  • 著者:有島武郎
  • 出版社:集英社
  • 発売日: 2009/6/26

モデルプロフィール

  • 名前:荒木毬菜
  • 生年月日:1992年6月2日
  • 出身地:湘南
  • 職業:歌手
  • 受賞歴:ミス慶應SFC2015/ミス蔵2017/Miss KJ Contest 2017 ファイナリスト
  • 一言:誰かにもらうHappy End じゃなくて、私を生きるHappy Mindを
  • 最近の悩み:どこまでもストイックになってしまうところです。「休んで〜」とみんなから言われます(笑)
  • Twitter:@marina_k_araki
  • Twitter:@misskj_no5
  • Instagram:@misskj_no5
  • facebook page:marina.araki.aramari62
  • stager live:ALAMARY

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

きりゅう

大学一年生。幼い頃から空想家。 どんなジャンルの物語もすき。小説を読むときは、ひたすらに心に響く言葉を探している。何でもない一節に惹かれることが多い。 映像や文章に加え、車や雑貨、服装まで、古き良き時代のものに惹かれる節がある。 自分の言葉で人の心を揺らしてみたい。