現実と空想を揺れるぶらんこ『ぶらんこ乗り』

子供にとって、現実と空想の世界に境界はない。自由に行き来する。そう、まるでぶらんこのように。

大人はどうだろう。きっと、空想の世界はちょっと遠くにある。

どうしてかって、空想が現実のものではないと知っているから。一線を引いて世界を分けてしまっているから。

でも、空想の世界に入っていけないわけじゃなくって、それが空想だってわかった上で、ひとつ距離をおいて、受け止めて、入っていく。

大人も、現実と空想の間を自由に行き来するぶらんこに乗れるだろうか。

「ぶらんこ乗り」という物語が、手助けをしてくれる。

ぶらんこ乗り

  • 著者:いしいしんじ
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:2004/7/28

この物語は、ちょっと説明が難しい。

読んでもらうのがいちばん手っ取り早いが、あえて説明するなら、主人公である姉の「私」と、その弟がいて、その子が、ぶらんこ乗りだ。

弟は、お話を書くことが好きで、小説中にたくさんの「弟が書いたお話」が出てくる。それらを通しながら、「私」や弟の気持ちを描く物語である。

 

何とも言えない浮遊感を味わうことになる。この物語には現実と空想の境目がない。いや、現実と空想を揺れて、徐々になくなっていく。

きっと、大人も、読み終える頃には、子供の心を取り戻している。上手にぶらんこに乗っている。

私は、読み終わったあと、思わず、「ゾウ 鳩 ローリング」と検索してしまった。

子どもの心を持っている人、もしくは、この物語を読んで子どもの心を取り戻した人は、そうしてしまうだろう。

弟はたくさんのお話を書くが、物語中盤から、それは弟の考える物語ではなくなり始める。彼は、動物の声が聞こえるようになるのだ。そして、その動物から聞いた話を書き起こすようになる。

 

弟は、どうしてお話を書いていたんだろうか。どうして動物の声が聞こえるようになったんだろうか。

 

おそらく、弟は寂しかったのだ。

寂しいとき、空想は最大の友達になる。

これは、子供だけではない。大人にとってもだ。

自分で物語を生み出さないにしても、本、漫画やアニメ、映画など、たくさんの空想に囲まれようとするだろう。

「わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね」

「ぶらんこのりだからな」

だんなさんはからだをしならせながらいった。

「ずっとゆれているのがうんめいさ。けどどうだい、すこしだけでもこうして」

と手をにぎり、またはなれながら、

「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」

ひとばんじゅう、ぶらんこはくりかえしくりかえしいききした。あらしがやんで、どうぶつたちがしずかにねむったあとも、ふたりのぶらんこのりはまっくらやみのなかでなんども手をにぎりあっていた。

 

 

これは、弟の書いた「手をにぎろう!」という、ぶらんこ乗りの夫婦のお話の一部だ。

彼の書く物語は、どれもこれのように奥深く、いろんな解釈の仕方ができると思う。

でも、ここでは、この物語に弟の寂しさが詰まっているとして解釈する。

 

弟は、寂しかった。だから、空想した。

ぶらんこは揺れる。現実と空想の間を。

ふと、怖くなる。現実に戻れなくなりそうで。

だから、現実にいる姉に、握って、と手を伸ばすのだ。

だけど、揺れているから、ずっとは繋いでいられない。それでも、現実と空想の間で手を繋ぐ、それは、素敵なこと。

そう言っているのではないか。

その大きなぶらんこをふわりふわりとゆらせながら、弟は私のほうに手を伸ばしたんだ。

ほら、と弟はいった。ほら、手を握って!

天使みたい、と思った。この世の、私たちにはみえないところを飛び回ってる天使みたいだ、このこ、って。

(中略)

弟はその晩、大きな字でこんなことをかいている。

「はじめておねえちゃんがぶらんこまであがってきてくれた!ぼくのぶらんこまで!おねえちゃんが!」

これを読めば私、天使みたいってより、弟がはっきり、この世にいたんだって気がちゃんとする。ばかみたい。天使なんかじゃなかった。弟はそのときもちゃんとこの世にいて、この世のいろんなものと、しっかり手をつないでいたかったんだ。

弟は、寂しくて、現実と空想を揺れるぶらんこ乗りになった。そうして、物語では、それゆえの弟の葛藤が見え隠れするけれど、やはり、弟はそのぶらんこを上手に乗りこなすのだ。

大人にとっても、空想の世界を身近に置いておくことは、寂しさを埋める大切なことなのではないか。

ちょっとの出来事で、すぐに空想の世界へ飛んでいく子供を、私は羨ましく思う。

弟のように、現実と空想を揺れるぶらんこを乗りこなして、自由に行き来して、でも、空想に引き込まれてしまわぬように、手を繋いで。

そうできたら、きっと、幸せだろう

そうして、その上でいちばん大事なのは、ちゃんと現実に戻ってくることだ。

でも大丈夫。

大丈夫って私にはわかる。

だって、ぶらんこは行ってはもどりする。はるかかなたへ消えたようでも、ちゃんとまっしぐらな軌道をえがき、ちょうどいい引力に従って、もといた場所にもどってくる。それに、忘れちゃいけない。弟は世界一のぶらんこ乗りだ。

ぶらんこ乗り

  • 著者:いしいしんじ
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:2004/7/28

モデルプロフィール

  • 名前:吉田葵
  • 生年月日:1995/10/7
  • 職業/大学:慶應義塾大学
  • 趣味/一言:ボクシング観戦/ボクシングファンになってください!
  • Instagram:@aoiyoshidaaaaa

(カメラマン・伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

きりゅう

大学一年生。幼い頃から空想家。 どんなジャンルの物語もすき。小説を読むときは、ひたすらに心に響く言葉を探している。何でもない一節に惹かれることが多い。 映像や文章に加え、車や雑貨、服装まで、古き良き時代のものに惹かれる節がある。 自分の言葉で人の心を揺らしてみたい。