父の背中を追い求めて『ふぉん・しいほるとの娘』

ふぉん・しいほるとの娘

  • 著者:吉村 昭
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1993/3/30

 

「シーボルト事件」「鳴滝塾」で有名な医師シーボルト。

今回は、その娘である「楠本イネ(くすもといね)を紹介する。

彼女は、日本最初の洋方女医として有名だ。

黒船到来前夜ともいえる時期に、混血児且つ女性という大変なハンデを背負って生まれ、
開国・明治維新に向けて激動する時代を女医として生き抜いた物語。

父の遺した「医学」を追って…

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イネの父であるシーボルト。

彼は、西洋医学を伝えに日本にやって来た。
出島にて瀧という名の美しい女性を愛し、「イネ」が誕生した。

イネが二歳の時、「シーボルト事件」が起こる。

実は、シーボルトはオランダのスパイだった。

医学は第二義的なもので、体のいい隠れ蓑にしていたシーボルトは、門弟たちに日本の政治機構や地勢、産物、武力などを掌握できるレポートをオランダ語で書かせた。
伊能忠敬らが作成した日本地図を手に入れたシーボルトは、上首尾で帰国を飾れるはずだった。
しかし、多量に詰め込んだオランダ船が出港前に暴風雨に遭い、転覆してしまう。

シーボルトは永久国外追放処分となる。
瀧を心から愛し、イネの行く末を案じるシーボルトはできる限りの金品を二人に残し、教え子たちの何人かに母子の将来を託して日本を去る。

イネは罪人の子として生きてゆく運命を背負わねばならなかった。
異様な容姿、異国の言葉を発するイネ。さらには、父親が罪人だ。当然周りからいじめや阻害を受ける。

だが、イネは美しく、学問が好きで意志の強い性格の持ち主であった。
周りに動じず、毎日、父の残した医学書を読み漁っていた。次第に医学に興味を持つ。
父に弟子達がいることを知り、医学を教われると大変喜んだ。

父の弟子であった、蘭方医・二宮敬作に師事するために旅立つ。
敬作に改めて父の偉大さを知らされる。そんな父を慕い、同じ医学の道を志す。
こうして、五年間修業して医学の基礎を身につける。

この頃から、お稲は、自分が世の一般の女とは異質であることを自覚するようになっていた。
聡明なイネは、混血という自らの出生を恨むことはなく、医学修業に自分の進むべき道を見出した
それは、一つの光明となり、生きる上での精神的な支えにもなっていた。

30年ぶりの父との再会

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「日蘭和平条約」によって追放を解かれたシーボルトが再来日するとの情報がイネのもとに届いた。
二歳の時に離れていったから、父との思い出はない。
だが、母や門弟達から父のことを、耳にタコができるほど聞いていた。
やっと、実の父に会えると思うと居ても立ってもいられなかった。

三十年ぶりにシーボルトと再会する。

イネ「私はあなたと同じ医者になりました。娘として、医者として、あなたに会えたことを光栄に思います。」

イネは泣きながら言った。

シーボルト「大きくなったなイネ。さすがは私の娘、誰よりも綺麗になった」

シーボルトはイネが優れた医者に成長していることを喜び、熱く抱擁した。

イネは是非、父から医学を教わりたかった。
シーボルトは更なる習学を望むイネに助力した。自分の知り得る知識を教えたのだった。

しかし、30年の歳月の流れは非情だった。
シーボルトは日本に来た理由が、更なる権力と名声、金を手に入れるためだった。
娘のイネや門弟を利用し、成り上がろうとしていたのだ。
60才を過ぎても権威欲と名声欲に性欲の塊である父に愕然とする。
偉大なことを成し遂げたにもかかわらず、まだ欲するのか。

さらに、母やイネの家政婦だった女に手を出したシーボルト。二人も孕めてしまう。
母は心が冷え、イネは嫌悪の情を隠せなかった。

私の敬愛していた父はこんな男だったのか。もはや、偉大な姿など垣間見ることもできない。
だが、あの時の父は本物だったはず。ならば、私は過去の父を参考にし、超えればいいだけだ。

イネの父への敬慕の念は薄れていく。同時に、反骨心が大きくなり、決意が固まった。
良くも悪くも、父の影響により、更なる活躍をしていくイネ。

楠本イネは、女の身で医者になることなど想像できなかった時代に、「教訓」「遺伝」「環境」から医者になるべくしてなったのだ。

この本の著者は、主人公を描くだけではなく、その時々の社会・政治状況や彼女の身の回りに起こった大小様々な事件、そしていろいろな人達のプロフィール的などを作中に散りばめることで、彼女達が生きた時代の流れをも巧みに描き出している。

余談だが、イネには娘・楠本高子さんがいる。
楠本高子さんがあまりにも綺麗で、『銀河鉄道999』のメーテル、『宇宙戦艦ヤマト』のスターシャのモデルになったとされている。

ふぉん・しいほるとの娘

  • 著者:吉村 昭
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1993/3/30

モデルプロフィール

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  • 名前:後藤叶恵
  • 生年月日:1994/6/20
  • 出身地:Aarhus Denmark
  • 職業:慶應義塾大学
  • 趣味:スポーツ観戦
  • 最近の悩み:就活を目前に日本語がおかしい
  • Instagram:@bakanaechan

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

タバオ

大学受験に失敗し、1年浪人するも不合格。コンビニ、土方、ヒーローショウ、環境調査隊、家電量販店のアルバイトを経験するが、やがてはニートにまで落ちる。だが、失うものがないからこそ、開き直れる! 高卒だっていいじゃない。ニートだったからって何なのさ! よく読むのは、歴史小説と漫画。好きな歴史小説『播磨灘物語』、漫画『NHKにようこそ!』。