ドラッグ依存の地獄を救ってくれた、一生の相棒猫。『ボブという名のストリート・キャット』

「これはセカンドチャンスなんだ」

著者のジェームズ・ボーエンは、ボブとの出会いをこう語っています。 

ヘロイン中毒のホームレス。ボブに出会う前のジェームズは、ミュージシャンになる夢が破れ、生きている実感もなく日々を過ごしていました。そんな彼に、幸せを掴むための「セカンドチャンス」をもたらしてくれたのが、野良猫ボブです。

行き場のない一人と一匹。彼らは、どのようにして最高の相棒になったのでしょうか。

ボブという名のストリート・キャット

  • 著者:ジェームズ・ボーエン (著),‎ 服部 京子 (翻訳)
  • 出版社:辰巳出版
  • 発売日:2013/12/14

野良猫とホームレスの出会い

「運命の出会い」信じますか?

「どのくらいこの子を飼ってるの?」

「えーっと、ほんの二、三週間てとこです。お互いに見つけあっちゃって」

「見つけあった」とは何とも奇妙な言い回しですが、彼らの出会いはただの偶然だったのです。ジェームズの住むアパートの階段下にうずくまっていた茶トラの猫、それがボブです。

声をかけると付いて来たというあたり、かなりコミュニケーション能力に長けていると思いませんか? 人慣れしたボブの様子に、ジェームズも飼い猫の可能性を捨てきれませんでした。見つけた時に負っていた怪我の治療を終えたら手放すつもりで、2週間だけ面倒を見ることにします。

怪我が治り、薬の服用も終えた翌朝。ジェームズは家を出る時に、ボブを家から出しました。飼い主の所に戻るなり、野良猫に戻るなり、生き方を自分で選べるように。しかし、追い払っても置いてきぼりにしても、ボブは必ずジェームズの帰宅を待っていました。とうとう仕事場までついて来た日、飼い主になる決心をします。

規則正しい生活と責任感だけではなく、自分自身に向き合う勇気もボブは与えてくれた。

自分自身に向き合う勇気とはつまり、完全にヘロイン中毒から抜け出す決心をしたということです。映画『トレインスポッティング』などでも描かれていますが、更生するには、生きているのが辛くなるほどの禁断症状に耐えなければいけないそうです。

地獄の48時間

薬物依存の更生というと、病院に閉じ込められるイメージでしたが、自宅から更生施設に通って治療するのだそうです。薬物中毒の治療は段階的に進められます。中毒症状の少ない薬物に移行し、徐々に量を減らし、最後は服用をなくします。その過程で、地獄のような禁断症状が出るのです。

煙草でもアルコールでも、何かをやめようとする場合、最初の四十八時間がいちばんつらい。生活の一部となっていたものがなくなると、ほかのことは考えられなくなる。

下痢、痙攣、吐き気、頭痛、激しく上下する体温。幻覚症状でうつろな状態と、急激な覚醒を繰り返す。光も音も刺激となって神経に突き刺さります。体の中を虫が這い回っているような不快感があるかと思えば、急に脚が暴れ出して跳ね上がり、止めることができなくなることも。

ボブは少なからず怯えていたと思う。ちょっとのあいだ、怪訝そうな目つきでぼくのほうを見ていたが、ぼくを見捨てず、そばにいてくれた。

禁断症状のさなか、ボブはそばに寄り添っていました。尻尾で撫でたり顔を舐めたり、喉を鳴らして安心させようとしたり。ジェームズの気分が悪くなると、察して離れたところで見守ってくれました。ボブのおかげで、ジェームズは48時間を乗り切ります。

ただ寄り添ってくれる存在。きっと最も大切なことは、孤独ではないという安心感なのでしょう。

ボブがくれた大切なもの

ボブはジェームズにもたらしたものは、ドラッグからの救済だけではありません。

「かわいい猫ちゃんだわね」

彼女はぼくのほうには目もくれず、ギターケースに何も落とさなかった。それでもぼくは満足だった。ボブが人びとをハッピーな気分にさせるのを見ると、なんだかうれしかった。

ジェームズはボブに出会う前から、路上でギターの弾き語りをして日銭を得ていました。ホームレスとして多少の優遇措置があるとはいえ、食費に家賃に光熱費、生きていく上で必要なお金は稼がねばなりません。

嫌がらせをしたり悪態をついたりする人、余裕のなさから妨害してくる他のホームレスたち。ジェームズも自分が一番ということもあったのでしょうが、ボブがいるだけで心に暖かなゆとりが生まれたのでしょう。

ボブの具合が悪くなった時には、知り合いの動物病院の看護師が薬を届けてくれ、代金は余裕のある時にと肩代わりもしてくれました。

胸が震えた。ボブと出会うまえは、こんなふうに人が進んで救いの手をさしのべてくれることはほとんどなかった。

これは誇張ではありません。路上で働く人間は、「普通の人」に話しかける機会を得ることも難しいのです。日本にもホームレスはいますが、「会話をする機会はないし、少し怖い」という方もいるのではないでしょうか。ジェームズも同じく、救いの手どころか話しかけることもできなかったのです。

今はボブがいて、ボブを通して人と交流するチャンスがあります。

ボブを通して人と繋がり、喜びを感じられる。これがきっと、彼が今まで逃していた「セカンドチャンス」を、ようやく掴めた証なのではないでしょうか。そしてまた、ボブも安心できる場所ができ、幸せに生きるチャンスを得たのではないかと思うのです。彼らはお互いに支え合う、まさに「相棒」なのでしょう。

ボブという名のストリート・キャット

  • 著者:ジェームズ・ボーエン (著),‎ 服部 京子 (翻訳)
  • 出版社:辰巳出版
  • 発売日:2013/12/14

モデルプロフィール

  • 名前:海老原 紗衣
  • 生年月日:1997/7/30
  • 出身地:千葉県
  • 大学名:慶應義塾大学
  • 受賞歴:フレッシュキャンパスコンテスト出場中
  • 趣味/一言:料理・クラゲを見ること
  • 最近の悩み:一人暮らしを始めて寂しい
  • Twitter:@sae_ebihara

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WRITERこの記事を書いた人

神谷京香

子どもの頃は200文字の作文にも苦労していたが、小学5年生の時にCLAMPさんの漫画に出会い、唐突に覚醒。いきなり2000文字以上の大作を書きあげるようになる。幼少時は童話で文字を、小学生の時は漫画で漢字と歴史を学び、高校生になる頃には弁当箱サイズのミステリ小説を読みあさるように。現在はジャンルを問わず活字なら何でも読む節操なし。趣味は寺社仏閣/滝めぐり、猫、夜散歩、声楽、一人カラオケ、日本酒とワイン。