翼のある猫の4きょうだいに、キュンとしてジンとなる。『空飛び猫』

僕はアーシュラ・K.・ル=グウィンの小説も、猫も(もちろん翼のはえていない猫でも)、どちらも好きなのに、こんな絵本があることを、つい最近まで知りませんでした。

空飛び猫

  • 著者:アーシュラ・K.・ル=グウィン (著),‎ S.D. シンドラー (絵) ,‎ 村上 春樹(訳)
  • 出版社:講談社
  • 発売日:1996/4/4

有名アニメ映画原作者が書いた絵本を、村上春樹が翻訳

冒頭は翻訳者の村上 春樹氏の、あとがきの言葉です。村上氏の猫好きはファンの間では周知のことですが、著者の名前を聞いたことはありますか?

アーシュラ・K.・ル=グウィンは、アメリカのSFファンタジー作家です。日本でも有名なアニメ映画『ゲド戦記』の原作者なのです。

翻訳は難しい仕事です。例えば映画の字幕。話していることと文字は、あまり一致しません。なぜなら、日本人の感覚で分かりやすいように訳しているからです(字幕の場合は文字数制限などもありますが)。慣用句や英語のつづり間違いなどは、直訳されてもピンと来ないですよね。

「いんげんを見たのかい?」とジェームズが言いました。

 「それを言うならにんげんだろう」とロジャー。

原文ではHuman beingをhuman beanと言い間違えているシーンです。豆つながりの言い換えを思いつくところが、さすが日本一ノーベル賞に近いと言われる小説家、と唸ってしまうところです。

翼のある子猫たちの可愛らしさにキュンとする

子猫たちのお母さんもお父さんも翼のない猫ですが、子猫たちは4匹とも、毛並みと似た色の翼を持っています。翼についてお母さんは、

なんでしょうねこれは、と頭をひねるのですが、食料集めや子育てにおおわらわですから、そんなわけのわからないことをいつまでも考えている暇はありません。

と、ほとんど問題にしていません。考えても分からないものは「そういうもの」と受け入れる。自然の中で生きる知恵なのかもしれません。

都会育ちの子猫たちは、ある事件をきっかけに親離れします。フワフワの翼で、自分たちの縄張りを求めて飛び立ちます。親離れしたばかりの小さな猫たちが空を飛んでいく。想像すると可愛らしいと思いませんか?

やがて子猫たちは、森にたどり着きます。

やわらなか地面――なんてへんてこな地面でしょう!

子猫たちがそれまで知っていた地面といえば、コンクリートやらセメントやら、そういうかちかちの地面だけだったのです。こんな地面は見たことも触ったこともありません。土、砂、落ち葉、草、小枝、きのこ、虫。どれもこれもわくわくするような素敵な匂いがしました。

日本でも、30年ほど前までは舗装されていない道はそこかしこにありましたが、今では珍しくなってしまいました。現代の都会っ子も、田舎に行くと子猫たちと同じ気持ちになるのでしょうか。

自然界のルールも森についても、何も知らない子猫たちは、鳥たちや動物たちと縄張り争いをしたり、時には食べられそうになったりしながら、何とか定住します。

子猫と子供。思いやりにジンとなる

都会育ちの子猫たちは、人間に良い思い出がありません。『靴』に追い回され、『手』にぎゅうっと握られて痛い思いをしたことも。お母さんにも良い手と悪い手を見極めるよう言い含められていました。

森での生活も板についてきた頃、子猫の1匹が『手』に遭遇します。彼女はきょうだいに「良い手だったと思う」と報告し、翌日はお兄さんと一緒に『手』と会った場所へ向かいます。昨日の『手』の女の子も、お兄さんを連れて来ていました。

「二匹もいるなんて、お前言わなかったじゃないか」とハンクは小声で妹に向かって囁きました。

(中略)

「二人もいるなんて、お前言わなかったじゃないか」とロジャーも小声で妹に向かって囁きました。

言葉は通じなくても、人間と猫の兄妹の会話が重なっていることにクスリとしてしまいます。子供たちも子猫たちも、お互いの様子を見ながら距離を縮めていきます。ありのままを見て、相手の嫌なことはしない。種族の違いを超えて心を通わせていく彼らが、何だか羨ましくなります。

一つお断りしますと、本書は絵本です。装丁は講談社文庫そのものですが、ページ数といい紙質といい、文庫本ではそうそうないものになっています。文庫本を持ち歩きながら中身は絵本、というアンマッチを楽しむのも一興です。

空飛び猫

  • 著者:アーシュラ・K.・ル=グウィン (著),‎ S.D. シンドラー (絵) ,‎ 村上 春樹(訳)
  • 出版社:講談社
  • 発売日:1996/4/4

モデルプロフィール

  • 名前:市川 ありさ
  • 生年月日:1997/3/29
  • 出身地:千葉県
  • 大学名:慶應義塾大学
  • 受賞歴:ミス慶應SFCコンテスト2017ファイナリスト
  • 趣味/一言:カフェめぐり
  • 最近の悩み:予定がカツカツなこと
  • Twitter:@mskeiosfc17no_1
  • blog:https://misscolle.com/keiosfc2017/profile/1

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

WRITERこの記事を書いた人

神谷京香

子どもの頃は200文字の作文にも苦労していたが、小学5年生の時にCLAMPさんの漫画に出会い、唐突に覚醒。いきなり2000文字以上の大作を書きあげるようになる。幼少時は童話で文字を、小学生の時は漫画で漢字と歴史を学び、高校生になる頃には弁当箱サイズのミステリ小説を読みあさるように。現在はジャンルを問わず活字なら何でも読む節操なし。趣味は寺社仏閣/滝めぐり、猫、夜散歩、声楽、一人カラオケ、日本酒とワイン。