猫をきっかけに、生きる勇気をもらえる。『悲しみの底で猫が教えてくれた大切なこと』

小さな町のパチンコ屋に置かれた『里親探しノート』。このノートから全ては始まります。無気力なパチンコ店のアルバイト五郎と常連客の3人が、猫をきっかけに人生を生きなおす感動ストーリーです。

悲しみの底で猫が教えてくれた大切なこと

  • 著者:瀧森古都
  • 出版社:SBクリエイティブ
  • 発売日:2015/4/25

低評価と高評価が二分されているワケ


読み始める前にインターネットでレビューを見てみると、評価が真っ二つに割れていました。

まずは低評価。レビューに並んでいるのが、「文章が下手」というもの。普段から文章力のある作家の本を読んでいる方には、読みづらい文章だったことでしょう。

理由は2つ。文章が単純なことと、文章の基礎に疑問を感じることです。

文章が単純なことは、説明や解説のような理解を深める文章には適しています。しかし、叙情的表現を期待する方や構築された世界観にのめり込みたいと思う方には、ストレートで物足りなく感じるかもしれません。

文章の基礎について最も気になったのは、「とのこと」が何度も見られることです。

弓子の旦那の話によると、顔に傷を負った青葉は、その後誰とも口をきかなくなったとのこと。成績優秀で歌や運動も得意だった娘の未来を奪ってしまったと、弓子は自分を責め続けた…と。その後、青葉は入院中に病院の中庭で雨に打たれたことにより肺炎を起こし、旅立ってしまったとのことだった。

日常で使うのは電話メモくらいしか思いつかないのですが、この伝聞を示す言葉は何度も出てきます。若輩者の私でも気になったのですから、普段から読書されている方ですと、読み進める手が鈍ったかもしれませんね。

続いて高評価のレビューは、涙腺を刺激する「感動ストーリー」というもの。4編どれを取っても、ストーリーに引き込む力が強いのです。

「感動ストーリー」と書いたワケ

なぜ「感動ストーリー」と書いたのか?

展開が読めるストーリーながら、やはりラストは心にグッとくるものがあるからです。分かっているのにはめられてしまうのは、さすが脚本家と思わされます。

著者の瀧森 古都氏はテレビ番組「奇跡体験!アンビリバボー」などを手掛けられています。展開が読めるのは、番組の再現VTRと同じパターンが使われているからなのでしょう。

《なんて事のない日常→事件勃発→山あり谷あり涙あり→ハッピーエンド》

展開がとても似ていますね。

展開と「猫」というファクターに縛られながら、4章ともしっかり違う後味になっています。起承転結は作文の授業で習いますが、うまく組み立てられず困った記憶がありませんか? 論文や企画書も「型があるからその通りに作ればいい」と言われたことがありますが、けっこう苦労しますよね。苦労を感じさせず、かつ感動させてくれるのですから、プロ脚本家の力量を感じます。

「とのこと」のワケ

感動ストーリーであればあるほど気になる「とのこと」という表現。何かの伏線ではないかと、仮説を立ててみました。

主人公の五郎は、日々を無気力に生きる若者です。理由は、幼い頃に負った心の傷です。

どうして母は突然史郎を連れて家を出て行ってしまったのだろう。

なにより、どうして僕ではなく、一年しか一緒に暮らしていない史郎を選んだのだろう。僕は、母に愛されていなかったのだろうか。

そのことについては、十数年経った今でも、もやもやとし続けている。

弟(父の愛人の子)が、母とともに消えてしまった喪失感。母に選ばれなかった悲嘆。楽しかった家庭は、もう戻ってこないという虚無感は、五郎を今も蝕んでいました。

地に足がつかない人生を送ってきた人物からは、自分の身に起きる全てが他人事のように見えていたのではないでしょうか。全ての事が目の前を通り過ぎていく、全てが「とのこと」で流れていっていたとしたら?

最新作『たとえ明日、世界が滅びても 今日、僕はリンゴの木を植える』では、ある箇所で「とのこと」が多くなっていることに気づきました。不遇な人生を送っているシングルマザーの視点で書かれた部分です。彼女もまた、自分らしく生きられないと悩んでいる人物でした。

瀧森氏にとって「とのこと」は、自分の人生をうまく生きられない人物を表現する言葉ではないでしょうか。そう考えて読むと、全編を通して「とのこと」が多いことには理由があったのだと思えます。

ラストに五郎は、自分を縛っていた過去の出来事の真相を知ります。彼はようやく自分らしく生きられるのです。後日譚は書かれませんが、「とのこと」と言っていないかもしれませんね。

悲しみの底で猫が教えてくれた大切なこと

  • 著者:瀧森古都
  • 出版社:SBクリエイティブ
  • 発売日:2015/4/25

モデルプロフィール

  • 名前:吉田葵
  • 生年月日:1995/10/7
  • 職業/大学:慶應義塾大学
  • 趣味/一言:ボクシング観戦/ボクシングファンになってください!
  • Instagram:@aoiyoshidaaaaa

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WRITERこの記事を書いた人

神谷京香

子どもの頃は200文字の作文にも苦労していたが、小学5年生の時にCLAMPさんの漫画に出会い、唐突に覚醒。いきなり2000文字以上の大作を書きあげるようになる。幼少時は童話で文字を、小学生の時は漫画で漢字と歴史を学び、高校生になる頃には弁当箱サイズのミステリ小説を読みあさるように。現在はジャンルを問わず活字なら何でも読む節操なし。趣味は寺社仏閣/滝めぐり、猫、夜散歩、声楽、一人カラオケ、日本酒とワイン。