山口百恵という一人の女性の生き方『蒼い時』

ある朝、「蒼」を感じた。
春の終わりのある夜、何故だか眠れず、ひとり部屋で、ただ時が過ぎていくことだけを感じながら座っていた。

伝説のアイドル、山口百恵。
14歳でデビューし芸能界を引退した21歳まで、たった7年の芸能人生だった。しかし、この間で数々の名曲を世に送り出し、大スターの座に登りつめた。大人びた表情にハスキーな声質。そして、どこか冷めているような目。日本中が魅了された。

そんな彼女が引退を決意したのは、俳優の三浦友和との結婚がきっかけだった。「妻」として、一人の女性として生きたいと思った。

今回、ご紹介するのは、彼女が弱冠21歳のときに執筆した「蒼い時」という自伝。
父親の愛人の子供だったという複雑な生い立ちから、芸能界を志した動機、性のこと、愛する恋人のこと、結婚のこと。美しく巧みな文章で赤裸々に書いた名著だ。山口百恵の中にある揺るがない芯を感じることが出来る一冊だ。

蒼い時

  • 著者:山口百恵
  • 出版社:集英社
  • 発売日:1981/4/20

 

恋に落ちたアイドル

夫となる俳優、三浦友和と出逢ったのは15歳のときだった。あるCMの撮影だった。
挨拶を交わしても、余計な笑顔など見せない落ち着いた言動。ぶっきらぼうな態度だと感じた。不思議なことに少しも不快に思わなかった。自分を偽ることなく生きていると思った。それまで、決して出逢ったことのない世界を感じた。

それから二人は、CMや「伊豆の踊子」などの映画で度々共演。気づけば、家族よりも多くの時間を三浦と過ごしていた。

晴海埠頭のロケーションがあった時だった。彼の胸に顔を埋めるシーンで、厚手の
セーターを通して、私の耳に響いてくる彼の鼓動を聞きながら、「この鼓動を特別の意識を持って聞くことのできる女性に…私がなれたら」と思った。
それは、まぎれもない、恋の実感だった。

彼女は三浦への恋心を一つ一つ丁寧に言葉を紡ぐ。あのとき彼が何をしたか、どういう言葉を発したか、そして、それによって自分自身の心はどう変化したか。よっぽど好きだったのだろう。当時の恋心を回想して事細かに綴っている文章を読み進めていくうちに、不思議と読み手も三浦に恋をしている気分になるかもしれない。

「妻」として


「我儘な…生き方を私は選びました。(中略)お仕事は全面的に、引退させて頂きます。」

恋仲になった二人は1980年に婚約発表をする。そして、彼女は結婚を機に芸能界の引退を公表した。「妻」として、家庭に入ることを決意したのだ。
悔いも未練もなかった。自分自身の性格を熟知している彼女は、家庭と仕事の両立はどちらも中途半端になってしまうと考えた。それは応援してくれる人々にとっても、夫にとっても失礼なことだと思った。

「自立している女」。今まで、世間は彼女をそう言っていた。だからこそ、結婚を理由に引退することは(自立している)女としての堕落とも見られた。「あなたのせいで女性の地位は昔に逆戻り」と言われたこともあったという

「自立」という言葉が世間では無意味に使われていると感じた。「自立」とは一体何なのか。男に負けじと仕事をし続けることなのか。彼女は疑問を抱いた。

女にとっての自立を私は、こう考える。
生きている中で、何が大切なのかをよく知っている女性。それが仕事であっても、家庭であっても、恋人であってもいいと思う。「私は、自立する女」という看板をブラ下げている女性も、薄っぺらな感じがしてならない。世間に出て、活躍してゆくばかりが、「自立」だとは決して思えない。

女性の意思決定

今、山口百恵は58歳になった。一人の妻として、母親として生きている。
結婚をしたら家庭に入ることが「女性としての在り方」だと思われた時代もあった。だが、現代社会において、女性の生き方は多様化してきた。結婚を機に仕事を辞める人もいれば、両立する人。あるいは、結婚をせずにずっと仕事を続ける人。どの生き方が正解でどの生き方が不正解などは、ない。

山口百恵は自分の意思で家庭に入ることを選んだ。自分の人生を丁寧に選び、歩むこと。それが、現代においての「女性の生き方」の一つだと、この本は教えてくれるだろう。

蒼い時

  • 著者:山口百恵
  • 出版社:集英社
  • 発売日:1981/4/20

モデルプロフィール

  • 名前:五十嵐 友泉
  • 生年月日:1997/7/12
  • 出身地:東京都 渋谷区
  • 職業:学生 帝京短期大学
  • 受賞歴:すっぴんGirl’sアンバサダー 2期生 グランプリ
  • 趣味:ミュージカル観賞
  • Instagram:@alohawaii712
  • Twitter:@fuwafle15berry
(カメラマン:伊藤広将)

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