こういう結婚の形があってもいいはずだ。『きらきらひかる』で夫婦の関係について考える

友人・恋人・家族・同僚……。
あなたの周りにいる人たちとの関係性について問われた時、あなたはいくつ、その関係性について答えられるだろうか?きっと思っていたよりも多くの人間関係が浮かび上がってくるのではないだろうか。例えば、友人の中にも親友と呼べる者もいれば、飲み友達、今はあまり連絡を取っていない者、などのクラスターに分けることができる。だから、どんな関係性も、ひとくくりにはできないのだ。そんな「人間関係の多様性」について、5冊の本を通して考えていきたい。

一冊目は、人気作家・江國香織の初期の作品で紫式部文学賞も受賞した『きらきらひかる』。薬師丸ひろ子と豊川悦司主演で映画化もされている、当時話題になった小説だ。

きらきらひかる

  • 著者:江國香織(著)
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1994/5/30

アル中の妻、ゲイの夫とその恋人の人間関係

私たちは十日前に結婚した。しかし、私たちの結婚について説明するのは、おそろしく厄介である。

妻の笑子はアルコール依存症で、夫の睦月はゲイで年下の恋人がいる。お互いを「脛に傷を持つ者同士」と言い、全てを受け入れて結婚した。睦月の恋人の紺と笑子との間には、友情が芽生えている。この3人の人間関係を中心に、周囲の人々とのやりとりを交えながら、物語は展開していく。

こういう結婚があってもいいはずだ、と思った。なんにも求めない、なんにも望まない。なんにもなくさない、なんにもこわくない。

笑子がこう表現するように、笑子も睦月もこの夫婦の形に幸せで、ずっとこの状態が続けばいいと思っている。しかし、双方の両親からの子どもを作ることへのプレッシャーに、次第に笑子は精神のバランスを崩していくのだった。

夫婦のあるべき形って?


日本というお国柄なのか、はたまたどこに行ったとしても同じように考えている人が多いのかはさておき、男女ともにある程度の年齢に達するまでに結婚し、結婚したら子どもをもうけるという図式が当然のことのように人々の意識の中にある。夫婦の在り方に、こうであるべきという形なんてないのに。

息子の睦月の性癖を知りつつも、医者としてきちんと家庭を築いてもらいたい睦月の両親。笑子の精神状態を気に病み、幸せになってほしいと願う笑子の両親。結果、お互い惹かれるものもあり、男女の関係はないけれど結婚した2人。普通の夫婦というものの定義は曖昧だが、私には一見奇妙に見えるこの夫婦の関係性の方がよっぽど正しく感じられた。

夫婦について考えさせてくれる恋愛小説


さて、ここまで読んで、どんだけドロドロで暗い話なんだ思った人も多いかもしれないが、読んでみると全く違う感想を持つだろう。これだけのテーマを扱っているのに、どちらかというと純粋な気持ちを呼び起こされたり、温かさを感じる小説だ。

ごく基本的な恋愛小説を書こうと思いました。

著者はあとがきでこう語っている。正直、恋愛小説と言われても最初に読んだときはピンとこなかったが、誰かを好きになることや愛情を持つことを恋愛と言うならば、この本はれっきとした恋愛小説だ。今から30年近くも昔に書かれた小説だから、例えばLGBTに関する認識が格段に低いとか、今より結婚しない人に対する風当たりが強かったんだろうということを感じざるを得ないけれど、この設定で「基本的な恋愛小説」と言い切る著者の感性や、この物語自体が持つ力は全く色あせていない。夫婦の関係性や多様性について新しい視点をくれる、何年経っても読み返したくなる一冊だ。

きらきらひかる

  • 著者:江國香織(著)
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:1994/5/30

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