『選択の科学』あなたの人生の分かれ道

 一体何が違うのかわからなくても…

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「ねえ、どれが似合うかな」

様々な色合いのワンピースが並ぶ前で彼女は嬉しそうに僕に尋ねた。いくつかのものはデザインの違いや色の違いを見分けることが出来たが、中には全く同じデザインにしか見えないものもあった。この問いかけに対して僕の取りうる選択肢は以下の通りだ。

1.どれも変わらないよ、とりあえずお昼ご飯食べよっかと言う。
2.紺色のワンピースがいいと思うよ。落ち着いた色合いだからカジュアルだけじゃなくてちょっとしたパーティーにも着て行けるだろうしと言う。
3.どれも素敵で甲乙つけがたいから試着してみなよ、一緒に選ぶからさと言う。

今までの経験上1は絶対にアウトだ。その後の雰囲気が最悪になり、甘いものをご馳走するまで彼女の機嫌は直らないだろう。2は悪くはないが彼女の好みにドンピシャでない限り、「私は白の方が素敵だと思うな」というだったら聞くんじゃないよと言いたくなる答えが返ってくるだけである。

そこで僕は3を選んだ。結果としてその後40分ほどお昼ご飯にありつけず、ワンピースを買わずにお店を去るという事態になり、ご満悦の彼女をよそに僕は自分の選択をちょっとだけ後悔した。

選択の科学

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今日のお昼ご飯は何を食べるのかという日常生活の些細なことから、誰と結婚するのか、どんな職業に就くのかといった重大なことまで、あらゆる選択肢の中から一つを選んで僕たちは生きている。

人生の様々な局面で遭遇する選択をより良いものにしていく、もしくはより良いと信じられるものにしていくことは、充実した人生や幸せといったものと深く結びついていると言えるだろう。

こうした人生にとって重大な、あるいは人生そのものとも言えるかもしれない選択について著者は長年研究を行ってきた。心理学を軸に置きながらも、経営学や経済学、生物学、哲学、文化研究、公共政策、医学を始めとする様々な分野を参照することで、様々な視点から人生における選択の役割と実践に関する通説に見直しを迫るのが本書「選択の科学」だ。

より良い選択を行う上で役に立つ情報を提供するだけでなく、選択の裏側に潜むものに鋭く切り込んでいくところに著者特有の経験が反映されている。

現在コロンビア大学ビジネススクールで教授を務める著者シーナ・アイエンガーはインドの生まれで厳格な掟を持つシーク教徒である。服装から結婚相手まで全てを宗教や慣習で決めてきた両親を見ながらも、個人の選択を重要視するアメリカの文化にも触れた彼女は、選択というものに大いなる興味を抱き生涯の研究テーマと定めたのである。彼女自身が持つある種の振れ幅が本書に深みを与えている。

選択に関する考察は僕たちの中にある本能から始まる。ラットや犬に対して行われた実験は、すべての動物の内に自由に選択をしたい、自分の命をコントロールしていたいという欲望が存在することを示している。

こうした欲望は人間においては自己決定権の要求という形で現れる。自分の人生は自分で決めたいという欲求が大いなる力を持つのは、本能に裏付けられているのだ。多くの選択肢の中から自由に、自分の思うままに選択したいと欲するのは自然なことのように思われるが、果たして選択の自由は幸せにどれほど影響を与えるのかと問うことで考察は深みを増していく。

選択の自由がほとんど無い厳格な宗教を信仰する人達に対する聞き取り調査を通して、結婚相手を自由に選ぶことが必ずしも結婚後の生活に良い影響を与えるわけでは無いという事実が判明した。また、選択の自由が良い影響を与えないどころか悪い影響を与えることさえあると筆者は述べる。

それがかの有名な「ジャムの実験」である。試食コーナーにある24種類のジャム中から選んだ時よりも、6種類の中からジャムを選んだ時の方が売り上げが高かったのだ。人々は多すぎる選択肢を前にして戸惑いを覚えたのである。豊富な選択肢は必ずしも人々の利益にならないという事実は、選択にはある種の矛盾が含まれていることを示唆している。

たとえ矛盾を乗り越えて選択を行ったとしてもその先にある未来は予測不可能である。選択をした瞬間はそれが最善であるように思われても、散々な結果に終わってしまうこともあるのである。こうした後悔や自責の念を駆り立てる選択についても筆者の考察は及んでいく。

他者に選択をしてもらうことで、その後の心の葛藤が軽減されることもあるというのだ。選択の持つ不確実性とどのように向き合っていくのか。すべての場面において成功し続けることなどほとんど不可能であるだろうから、失敗への向き合い方も成功するための努力と同じかそれ以上に大切になってくるだろう。

運命と偶然と選択

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人生を運命や偶然という観点から捉えることも出来る。単純な物語は時として僕たちの心を慰めることもあるが、選択の物語がもたらす豊かさや複雑さ、そして自分の力で未来を切り拓いていく実感には到底及ばないだろう。

科学の力を借りて巧みな選択を行うことは確かに出来るが、選択の力を最大限発揮するには、選択に潜む不確実性と矛盾を受け入れる必要がある。全貌を明らかに出来ない選択には、本質的には芸術と同じく秘められた部分が数多く存在している。一筋縄ではいかない選択を通して人生を見つめることは、これからの日々を歩む足取りを確固たるものに変えるだろう。自分の人生がどこから来てどこへ向かうのかを示す羅針盤が選択なのだから。

今日のポイント

  • 選択の持つ大きな力を自覚すること
  • 選択に潜む不確実性と矛盾を受け入れること
  • その上で科学のもたらす知見を活用すること

選択の科学

  • 著者:シーナ・アイエンガー
  • 出版日:2010/11/12
  • 出版社: 文藝春秋

モデルプロフィール

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  • 名前:市川 磨理
  • 生年月日:1990/04/21
  • 出身地:愛知県
  • 職業: 教育
  • 趣味:ワクワクを発見すること

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