天才の栄光と挫折 数学者列伝
- 著者:藤原 正彦
- 出版社:文春文庫
- 発売日: 2008/9/3
本書を一言で
数学者たちの生き様大辞典
こんな人におすすめ!
- 数学コンプレックスを持っている人
- 数式は分からないけど、数学者の話は気になる
- 数学を物語として読みたい
これまで数学に興味を持ってもらえるような本を紹介してきたが、今回は一風変わって数学者たちの列伝本を紹介したい。
「数式が苦手なら、数学者を知ればいいじゃない」。
まずは、物語として数学に興味を持ってみてはどうだろう。
著者は自身も数学者であり、現在お茶の水女子大学理学部教授の藤原正彦氏だ。数学が苦手な人向けに、平易な文章で興味が持てるように書かれている。数学を物語で読む面白さは、たまらない。
一人目の数学者 アイザック・ニュートン

この本には、9人の数学者の列伝が紹介されているが、最初の一人目はニュートンだ。
文字の多くを割いてでも、ニュートンだけは紹介したい
どうして彼が最初の一人目かは、読んでいてすぐに理解ができた。
ニュートンが出版した『プリンキピア』の出現が事件だったからだ。
彼はこれまでの力学、物理学、天文学が一変したと言われるほどの革命を起こした。
そして、この数学者の物語は「面白い」と一言に尽きる。
実は、天才ニュートンは生まれながらにして才能を発揮した訳ではなかった。
大学二年時に数学者バローに出会ったことが、彼を数学者の道へと加速させる。
自然科学に興味を持ったニュートンは、卒業までの二年間の独学の末、科学と数学の基礎を身に着けた。わずか二年の勉強でデカルトの『屈折光学』、ユークリッドの『原論』、ボイルの『色についての実験と考察』、その他ケプラーやガリレイ、ウォリスなどの著書を次々読破していったという。
20代前半で、恐ろしいことだが「微積分法」、「万有引力の法則」、「光の色に関する理論という三つ」の大理論を発見した。もう、怪物としか言えない。
しかし、奇妙に思えるかもしれないが、ニュートンには大きな数学スランプ期が存在する。
あのニュートンが一時期、錬金術と聖書の研究に明け暮れた期があるのだ。ニュートンの死後の話になるが、彼の蔵書1624冊のうち数学・自然科学系の本は259冊で16%に対して、神学・哲学系の本は518冊で32%である。数学よりも、力を入れていたことが分かる。
周りからもニュートンは頭がおかしくなったと言われる始末に。
錬金術と聖書に没頭した理由に、自分の理論にメルカトールという数学者が「先に俺が見つけた理論だ!」と喰いつかれたのが挙げられる。きっと、「先に見つけた!」と主張する数学界の幼稚さに嫌気も差したのだろう。
ただ、挫折だけで物語が終わっては味気ないというものだ。
天才の栄光はここから始まる。
著者の藤原氏は
大きな業績をあげる者はたいてい「つき」に恵まれるものである
と語っているが、ニュートンにとって最大の「つき」はバローの他にもう一人の数学者、ハレーと出会ったことだ。もちろん、あのハレー彗星の発見者だ。
大転機が訪れる。
ニュートンが41歳のとき、ハレーが彼の元にやってきた。もちろん、あのハレー彗星の発見者だ。
ハレーは、錬金術に取り憑かれているニュートンをこう挑発したのだ。
「引力が距離の二乗に反比例する時、惑星の軌道はどうなるでしょうか」、と。
これは当時、数学者フックが色んな数学者に問いかけていた質問で、ハレーはニュートンの数学でしかこれは解決できないと思っていた。ついに聞いたぞ、さあどう答える……
ニュートンは即座に「楕円です」と、答えた。
驚くハレーに「前に計算したことがある」と言い、机の書類の山をごそごそと探し始めるニュートンだが、どうも見つからない。あちこちひっくり返したあとに「新しく書いて送ります」とハレーと約束した。
この出来事が彼の人生を、また数学の道へと戻していく。
それからのニュートンの生活は急変した。数学、力学、天文学に狂人の如く打ち込み、次々に数学的仮説を立てていく。力学と天文学を一つの体系にするという巨大なテーマに可能性を感じ、『自然哲学の数学的原理』(通称:プリンキピア)を出版。
アリストテレス、プトレマイオス、コペルニクス、ガリレイ、ケプラー、デカルトと人類が積み上げてきた数学体系が崩壊し、ニュートンによる新説が数学界を牽引することになったのだ。
ニュートンがいなくとも、いつかは誰かが『プリンキピア』の内容を発見したはずである。しかし五十年は遅れたであろう。近代文明はもっぱら、ニュートン力学に依存して発展したから、ニュートンがいなければ、文明の発達が少なくとも五十年は遅れたことになる。そうすると世界はいまだ第二次世界大戦直後ということになる。科学の影響とはそういうものである。一天才科学者の力とはそういうものである
本書では繰り返し、歴史に名を残す天才とは「つき」に恵まれた人であると著者は繰り返す。
ニュートンにとっての「つき」は紛れもなく、二人の数学者、バローとハレーに出会ったことだろう。
さらに、まだまだ後8人の数学者が紹介されている。
関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスガヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズ…。
きっと、この本を中学生の頃に読んでいたら、私もちがう道を歩んだかもしれない。
そう思えるような本であった。
天才の栄光と挫折 数学者列伝
- 著者:藤原 正彦
- 出版社:文春文庫
- 発売日: 2008/9/3
モデルプロフィール

- 名前:水谷花那子
- 生年月日:1993/9/29
- 出身地:大阪府
- 職業:慶應義塾大学
- 受賞歴:週刊ゴルフダイジェストビューティークイーン2016
- 趣味・一言:クラシックバレエ・スペイン語・ゴルフ
- 最近の悩み:学生生活が終わること
- Insta:@kanakomizutani
- 他リンク:https://store.line.me/
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(カメラマン:伊藤広将)
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