ダーウィンの覗き穴
- 著者:メノ・ スヒルトハウゼン
- 出版社:早川書房
- 発売日:2016/1/22
進化論のダーウィンは、世界で一番長い交尾器をもったフジツボの発見者としても著名です。
じつは生物学者は古くから、生き物の「秘部」が隠し持つ驚きに圧倒され続けてきました。
たとえば……・ペニスにバイブレータを備えたガガンボがいる。
・クモの雌はイケてる雄とそうでない雄の精子を使い分ける。
・自分の体長の倍以上の長いペニスを巻尺のようにまるめて収納する甲虫がいる……性というテーマは進化論上でも論争の激しい分野。この多様性の王国を生物学者のガイドと、驚くべき多数の図版でお楽しみください。
……
ダーウィンってそんな発見もしてたの!?
バイブレータを備えたガガンボって!?
自分の体長の倍以上の長いペニスをまるめて収納する!?
と、つっこみどころ満載だが、本書は決して奇をてらった本ではない。至極真っ当な生物の生殖器について書かれた本である。生半可な気持ちでは読み進められない。
やっと生殖器学が一つの学問分野として確立するようになる

進化生物学がようやく生殖器に関心を払うようになったのは、1979年だった。
昆虫学者ジョナサン・ワーゲが、カワトンボのペニスに関する論文を発表した。
カワトンボのペニスには小さなスプーンのようなものがついていて、雄は交尾中にこれを使って雌の膣を掃除し、自分より前に交尾した雄の精子が残っていたらすべてかき出す、ということ示した。
このとき初めて、動物の生殖器がただ精子を受け渡しするだけの実用的な器官ではなく、ある種の性淘汰が起きる場所でもあるという証拠が得られたのだった。
というのも、カワトンボの進化において、最良の精子かき出し器をもつ雄のほうがたくさんの子孫を残していたからだ。
進化とは繁殖をめぐってある種の利己主義がもたらす作用であり、その目的は個体が自己の遺伝子を次の世代にうまく送りこむことに尽きると理解されるようになったのだ。進化はひたすら繁殖を目的とするものなので、ワーゲをはじめとする現代の生物学者がやがて生殖器を詳細に調べることになったのは当然のなりゆきだったと言う。
体内求愛装置としての生殖器

代々の生物学者たちが完全に無視してきた生殖器の進化のドラマがある。
一部のテントウムシはとりわけ大きく平べったい交尾鉤をもっている。交尾中のペアを間近で観察すると、毛で覆われた交尾鉤が二本のミニチュア卓球ラケットのように、雌の生殖器を叩く様子が見られるそうだ。雌の陰部の神経終末を刺激されることによって雄のメッセージに注意を向けるのだと考えられている。
また昆虫、クモ、哺乳類の種全体の四分の三において、そしてヘビ、ヤスデ、カイチュウなど多くの種は、雄が射精したあともしばらく性器をスラフト続ける。
こうした運動は精子の射出を可能にするためというよりも、雄がぺニスを体内求愛装置として使い、こぶやとげやパランなどぺニスに備わるものを雌に感知させることに最も効率的な方法なのだという説明が妥当である。交尾相手の内なる秘所の神経受容体を特に強く刺激することのできる雄は、雌の印象に長く残り、求愛者として選ばれる可能性が高くなるというわけだ。
著者、メノ・スヒルトハウゼンは、生殖器研究に携わる者に対して「メディアから浴びせられる忍び笑い」に打ち勝ちたいと言っている。

人間は生殖器にあくなき興味を抱くという揺るぎない事実にも関わらず、内容が内容だけに、社会の風潮のせいで生殖器がまじめな研究対象とは受け止められなかった時代があったようだ。やっと生殖器学が一つの学問分野として確立するようになった。
著者は、性にまつわることへの好奇心から調査を始めたらしいが、生殖器研究の意義を社会にきちんと伝えることにより、生殖器研究に対するメディアや世間からの不当な扱いを打破したいと真剣に願っている。
今日のポイント

- 動物の生殖器は、ただ精子を受け渡しするだけの器官ではなく、ある種の性淘汰が起きる場所でもある
- 交尾相手の内なる秘所の神経受容体を特に強く刺激することのできる雄は、雌の印象に長く残り、求愛者として選ばれる可能性が高くなる
ダーウィンの覗き穴
- 著者:メノ・ スヒルトハウゼン
- 出版社:早川書房
- 発売日:2016/1/22
モデルプロフィール

- 名前:原 瑠理子
- 生年月日:1991/03/24
- 出身地:福岡県
- 一言:ソフトバンクファンです
(カメラマン・Rimi Sakamoto/個人サイト・http://www.rimisakamoto.net/)
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