ちょうちんそで
- 著者:江國 香織
- 出版社:新潮社
- 発売日:2015/5/28
捨てられない記憶と暮らす

ふとした瞬間に香る晩御飯の匂いや、大雨の後のコンクリートの匂い。または、大好きだった人が使っていたボディークリームの匂い。はっきりとは思い出せないのだけれど、確実に記憶の中に存在していてふわりと香るあの匂いが、この物語には充満している。
歳を取ればとるほど、捨てられない記憶が増え、恋や愛の形も変わっていく。自分にとって、ナマモノではなくなった恋や愛とどうやって関わっていくのか。
実は綺麗なままである記憶との付き合い方が一番厄介なのかもしれない。それがいいと思って生きるのも、ひとつの選択肢だと思わせてくれる。
ちょっと変わった角度から人生を眺めることが出来る物語です。
交錯するいくつもの愛

主人公は、54歳の雛子。都心から離れた高齢者向けのマンションで生活をしている。物語の中には常に架空の存在である妹飴子が居て、まるで今も一緒に暮らしているような雰囲気に仕立てられている。飴子は実の妹だったが、妻子持ちの男と駆け落ちをして神戸に行ってしまった。その2年後、男が元の妻とよりを戻してからはとうとう行方不明になってしまい、二人は再会することが未だにできていない。だから雛子の傍にいる架空の妹飴子は今でも、最後に会った30歳くらいのままなのだ。架空の飴子が発言する言葉はいつも正論で、それはまるで雛子の気持ちを代弁しているようにも感じる。
雛子も恋愛は上手くいかない人生を送ってきた。自分の子供である誠が12才の時に、子供を置いて他の男のところへと出ていってしまう。

それから年月が流れたある日、誠が雛子のマンションを尋ねてくる。そこで初めて雛子は、自分に孫が出来たことを知る。誠からの近況報告を淡々と聞く姿、そして誠の大好物だったミートソースを準備する姿から憂いを感じずにはいられない。
物語の終盤では、現実の飴子が写っている写真がまるで当たり前に存在している風景のように取り上げられる。結末までの心地のいい読後感をぜひ味わって頂きたい。
この物語に登場する人物の生き方。ゆったりした時間のように続いていくストーリーが少しずつ胸を締め付ける。どうしてあのとき、こうしなかったんだろうね。そんな後悔の言葉を何百回も問いただした先にある物語のように感じた。
取り戻さない、正しさもある

「取り戻そうと思えば、いつでも取り返せる」この台詞通り、取り戻そうと思えば、違う未来があったのではないかと考えされられる場面が物語の中にはいくつかある。きっともっといい未来があったのではないだろうか、という選択がある。それは私たちの毎日と一緒ではないだろうか。どのような選択をしても、取り戻そうと思えば何かしら行動を起こすことができる。
しかし雛子はそれをしなかった。その代わりにきっとたくさんの記憶を忘れることなく思い出しながら生きていくことを選んだ。無理をして、意地を張って、取り戻さないという、正しさもある。この物語から漂う日常の香りと記憶の香りは、そんなふうに思わせてくれた。
ちょうちんそで
- 著者:江國 香織
- 出版社:新潮社
- 発売日:2015/5/28
モデルプロフィール

- 名前:高橋里彩子
- 生年月日:1993/8/27
- 出身地:秋田県
- 職業:芸能系
- 趣味:カラオケに行く
- Twitter:@konkonwanwan
- Blog:高橋里彩子オフィシャルブログ
(カメラマン:伊藤広将)
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