20歳はみんな悩んで大きくなる年齢 ひとりじゃない『ウイルスちゃん』

若いときには旅をしよう

旅をしたことはありますか?国内でも海外でも、長期でも短期でも、日帰りだってかまいません。すべての人にあてはまるわけではありませんが、旅は自分の視野を広げ、思索を豊かにしてくれるもののひとつです。

暁方ミセイの詩の多くが、若い詩人が旅をし、その眼に映ったものをしるすことで成り立っています。出版当時の彼女は社会人2年目。日常を離れて広大な土地を見ることで、さまざまなことを感じていた様子がうかがえます。

ウイルスちゃん

  • 著者:暁方 ミセイ
  • 出版社:思潮社
  • 発売日:2011/11

生きていくことをじっくり考えてみた


旅をすると開放された気分になる人は多いと思います。けれども、そうした気分を知れば知るほど、毎日の生活には生きづらさを感じてしまう人が一定数いるようです。

おそらくこの詩集の作者の暁方さんも、そんなふうに感じている一人。駅前にいて、目の前にある風景を物悲しく見つめるまなざしを描いた作品が「生物」です。

浮力のついた 駅前書店で

潜水しているくじら

(今朝の、バスタブからついてきたんだな……

ことばを食いつぶし

何でも食べて生きていると泣いた。

タクシーがくる、

陽炎のなかをくる、

窓めく透明な立体駅を

大きなくじらがのっそり過ぎていく。

けるける、

幾本も刺す陽

あのとき

全員で静止して

ゼリーみたいに

固まってしまえばよかったのに。

 

(人やプランクトンが交差点をつくる横断する

(信号機に従って

(けれど、みんな 目の上で起きている事件だ

(喜びも悲しみも

じぶんのなかからやってきて

いつも そとがわへ消えていった

「言葉を食いつぶすくじら」という巨大なものに抗いたいけれど、そうはできないせつなさに「ゼリーみたいに固まってしまえばよかった」と思うばかりです。そんな無力な心に共感せずにはいられません。

20歳ってどんな年齢?

「自明灯火」は、まさにいま20歳の人にも、もうずっとむかしに20歳だったひとにもおすすめしたい名作です。

そのときわたしは

二度と

この場所に居ることがあるだろうか

と、かんがえていた

狭い通路には人々の抜くんだ呼気が充満し

点々と灯る小さなランプが

目を閉じると

青く点滅していた

どの、

穏やかな長い風

温かさや静寂のなかに

あったとしても

先のことが、

空を

染め変えないことなどない

なにひとつ待たない流れが

わたしを老婆にしてしまう

 

ただ、仄かに青白む

冷えた窓にくりぬかれた

わたしは 二十歳でした

いっさんに駆けぬけ

燃えしきる工事場のランプを

見つめた、

わたしは

身体分だけの身体で

あの場所に座し

いずれ搔き消えていく

ひとつの灯りでした

誰にも否定することができない

現実の真摯さを以て

いつか死んでしまうことが

はっきりとわかった

わたしは燃えた事実を携えて

二十歳でした

「いつか死んでしまうことが/はっきりとわかった」「わたしは 二十歳でした」、こんなに強い言葉を口にするほどの経験を、何から得たのかはわかりません。けれども、なにかしら強い衝動を持って、そうした境地に達したのだということはわかります。何を感じますか?

いずれ消えていく光だとしても


暁方ミセイの詩には、生きることや死ぬことについての言及が多くあります。一定数の若者は、死ぬことにあこがれて、それを描こうとします。一定数の若者は、実際に誰かの詩に接して、それについてじっくりと考えようとします。

人間はいつか死にますが、強い心を持って凛と生きていくことがやはり必要でしょう。暁方ミセイの詩は、旅のようすをのびのびと描く一方で、毎日の生活を物悲しく捉え、対照的ですが、そのどちらにあっても透明さを失いません。なにものにも染まらない20歳を描いた名詩集です。だれかの魂に触れたい人におすすめです。

ウイルスちゃん

  • 著者:暁方 ミセイ
  • 出版社:思潮社
  • 発売日:2011/11

こんな悩みを解決!

「自分っておかしいのかな」「なんだか浮いている気がする」そんな異質さを自分に感じてしまった時に読んでください。誰もがそんな気持ちをすこしだけ持っていること、自分は大丈夫なんだということをきづかせてくれるでしょう。

モデルプロフィール

  • 名前:奥村莉子
  • 生年月日:1996/9/26
  • 出身地:三重県
  • 職種:慶應義塾大学
  • 受賞歴:津クイーン
  • 趣味:美味しいカフェ巡り。沢山の本を読みたいです!

(カメラマン・伊藤広将)

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