ずれた五分に込められた意味とは。『真夜中の五分前』

真夜中の五分前

  • 著者:本多 孝好
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:2007/6/28

 

一週間テーマを決めて本を紹介する、本to美女。今週は、少し心がほっこりして、また日々を歩いてゆこうと思えるような小説を取り上げたいと思います。

 

自分が一番自分を知っているはずなのに、誰よりも自分がわからなくなる。そんな瞬間をみなさんも感じたことがありますか。

 

理屈ではわかっているけど、心がついていかない。

大好きな人なのにこれでもかと傷つけたくなる。

とても悲しいはずなのに涙が出ない。

 

そんな瞬間にわたしは、自分のことがわからなくて怖くなることがあります。

 

真夜中の五分前は、自分を自分たらしめてるものが何かを考えさせられる作品です。

 

あの日止まった時間が動き出す。なぜ止まったのか、なぜ動いたのか。

動き出した時間が、また、止まる。また、進む。

 

これから書くのは、そんな愛の話です。

五分のずれ

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学生時代につき合っていた恋人が、19歳で亡くなった主人公は、当時の恋人・水穂が好んでいたように、今も時計を五分ずらし続けています。水穂は、得した気がするから五分ずらすのだと、【僕】に教えてくれたのに、いまはもうここにはおらず、

彼女が亡くなったあの日から、【僕】の時計はずっとずれたまま。

 

誰の事も深く愛せず、誰とつき合っても長く続かない【僕】に、元彼女の翔子は、あなたは狂っている、と別れ際に告げます。

「そう。狂ってるのよ。あなたの部屋にある目覚まし時計と同じ。ほんの五分くらいだけだけどね。ちょっとだけ、でもきっちりと狂ってる。二人でいるときは気付かない。五分先にある本当の時間より心地いいくらい。でも私は、五分先の世界の住人で、五分遅れたあなたの世界では暮らせない。」

 【僕】は時間を五分ずらすとこで、自分に何かを期待していたのでしょうか。

それとも、自分を戒めていたのでしょうか。

十の二百四十乗分の一の奇跡

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【僕】は公営プールで出会ったかすみとの間で徐々に変化していきます。ぼくとかすみは顔見知りになり、ある日かすみが【僕】を誘い、デパートでとても大切な友人の婚約祝いを選んでほしいと頼みます。【僕】はよく事情がわからなかったけれど、予算や関係を軽く聞き、フロアを見渡し選びました。お礼にと誘われたカフェで、実は友人ではなく双子の妹にあげるプレゼントなのだと告白されます。全く遺伝子が同じ、一卵性双生児。一卵性双生児が生まれる確率は、なんと十の二百四十乗分の一。人類がクロマニヨン人辺りから今までと同じ歴史を三回くらい繰り返せば、一人くらいは出てくるかも、という可能性。異なる事をしようとしても、同じ事をしてしまう、同じものを選んでしまう。だから、妹のゆかりが驚くプレゼントをするために、【僕】にえらんでもらったのだと。

 

十の二百四十乗分の一の奇跡は、彼女にとっては、十の二百四十乗分の、悲しみなのかもしれない。かすみの言葉の端々から、そんな感情が垣間見えます。 

そこにあるものではなく紡ぐもの

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プレゼント選びがきっかけとなり、【僕】とかすみは親しくなっていきます。そんな折、妹と、その婚約者に会ってほしいとかすみに頼まれた【僕】。断る理由もなく、出かけると、そこにはあまりにも似すぎていて、区別のできないかすみの妹のゆかりがいました。驚愕・困惑・混乱。彼女の婚約者である尾崎さんに、なぜかすみではなくゆかりだったのかと尋ねてしまう【僕】。

「僕は運命なんて信じない。運命の出会いも信じないし、運命の人も信じない。運命の赤い糸なんて存在しない。僕等は長い時間をかけて、たくさんの言葉を費やして、お互いの小指に糸をくくりつけて、同じくらい時間と言葉を使って、そのくくりつけた糸を守ってきたんだ。その相手はゆかりであって、かすみさんじゃない」

 

そしてその日、【僕】は、かすみは世界で一番叶わない恋をしていることを知ります。

私が彼だったら、彼女だったらあのひとだったらこんなにも幸せなのに。そんな風に誰かの人生を羨ましくなることがありませんか?そんな時、羨望の対象の彼や彼女が、何かを手に入れているその理由がわからないことは、ひどく辛く悲しい気持ちになります。しかし彼等である理由がわからないのと同様に、自分である理由も見つけられない。そこにはただ、そうである、という事実だけが存在している…双子ではなくても、かすみの心を占めるむなしさを感じずにはいられません。

許し合うことにより進む二人の時間

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ゆかりがいることで、自分であることがわからなくなってしまうかすみ。

水穂を失っても、自分があまりにも何も失わなかった事で、自分がわからなくなった【僕】。

【僕】はかすみに、あなたは水穂さんを愛していたと言ってもらう事で、

かすみは【僕】に、他の事はなにも関係ない、ただ目の前にいる君を愛していると言ってもらう事で、自分自身を受け入れることが出来るようになります。

二人は苦しみを理解し合って、お互いに補い合って、そうして、小指に糸をくくりつけ始める。

 

 

真夜中の五分前は、side-A side-Bの二冊で物語が完結します。

ここまではside-Aのお話。

 

しかし、そう簡単には【僕】の人生はままならず、物語はside-Bへともつれ込みます。全く同じ遺伝子をもつかすみとゆかり・尾崎さんと【僕】の4人の歯車は狂いだす。

目の前にいるのは、かすみなのかゆかりなのか、水穂のことは愛していたのか、【僕】が愛したのは、愛してきたのは誰なのか。

 

それでも進んで行く人生の、一日のうちの五分の時間を【僕】は、誰のために使うのでしょう。

 

もし、今までの話でこの本が気になっていただけたなら、この物語の結末を見届けてほしいです。

 

悲しくて切ないけれど、遠いトンネルの先に光が見えたような、そんな気持ちを、感じてもらえるのではと思います。

そして、その小さな光があなたの心を温かく覆うような、素敵な出会いとなりますように。

 

真夜中の五分前

  • 著者:本多 孝好
  • 出版社:新潮社
  • 発売日:2007/6/28

モデルプロフィール

yamada_profile
  • 名前:山田涼子
  • 生年月日:1998/9/7
  • 出身地:千葉県
  • 職業:学生、モデル、カウンセラー
  • 趣味・一言:趣味は読書とカラオケです。悩み等ありましたらお気軽に!
  • 最近の悩み:寝すぎてしまう
  • Twitter:@ShinriRiko

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

渕田 悠子

アッパー系な会社に勤めながらもインドア派を貫く社会人3年目。本の虫だった母の影響で、幼少期からの趣味は読書。読むのはもっぱら小説と漫画で、今のお気に入りは大好きな後輩におすすめされた、よしながふみ先生の『フラワー・オブ・ライフ』と、会社の先輩におすすめされた原泰久先生の『キングダム』。二作とも、私の心を震わせまくった作品です。 皆さんに、心が震える最高な本との出会いを提供できればと思ってます。