うまくいかないことばかりでも、日々を確かに歩き続ける 『神様のケーキを頬ばるまで』

神様のケーキを頬ばるまで

  • 著者:彩瀬 まる
  • 出版社:光文社
  • 発売日:2014/2/19

 

一週間テーマを決めて本をおすすめしておりますが、今週はほっと心が温まるような小説を紹介しております。

今日は、面白おかしく笑えるようなコミカルさはないけれど、少し胸をえぐるような痛みとじんわりする暖かさをもたらしてくれる私の一押しを取り上げたいと思います。

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ある街の雑居ビルを中心に、5つのストーリーが描かれているオムニバス。どの話もみな、人生の何かがうまくいかない、そんな主人公たち。

大事にしたかったものがわからなくなって、がんじがらめになって、どうしても抜け出せない。みなさんもそんな経験が一回くらいはあるのではないでしょうか。

この物語の登場人物も、とても好きな人にただただ好きになってもらいたいだけなのに、目の前にいる好きな人のことが全然わからなかったり、周りの誰も気にしていないような事が気になってしまうくらい卑屈になってしまっていたり…。そんな彼らの不器用さが、時には自分を見ているようで痛くて、時に微笑ましくて…本作は、場面の一つ一つが日常に重なっていくような感覚を覚える物語になっています。その中でも私が思い入れの強い場面を紹介していきます。

いつもビリだった、小学校の徒競走。一番の彼にはどんな景色が見えていたのだろう。

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のどが弱くて、走るのが遅かった橋場は、誰に何をいわれたわけでもないのに、いつもどこかで言い訳を考えていました。チェーン店のカフェの店長をしていますが、ほかの立派な店舗と比べて薄暗い店舗をまかされていることがどこか苦しいのです。自分をわかってほしいという気持ちと、これを言った方が、相手が喜ぶのではないか、これを言ったら嫌われるのではないか、という気持ちがせめぎ合い、なかなか自分の本心を伝えられずにいました。そんな彼が、小学校の徒競走で一番を取り続けたような何もかも手にしてきたかのような男と出会い、言葉を交わし、少しずつ自分の気持ちを開いていきます。
いつもうらやましかった。一番になりたかった。そんな橋場に一番だった彼がかけた言葉とは。

「私から、こんな風に頭を下げてでも、離れたいのだ、この人は」

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ずっと一緒にやってきた、バンドボーカルの彼が、自分から離れて行ってしまいます。古書店バイトの朝海は、彼の魅力が最大限に引き出される、バンドのあるべき世界観を描く詞を書かなければと、いつも心に浮かぶ言葉をメモしていました。彼が他の人と創った曲「プレブロマティカ」が話題になっていることは知っているのに、知らないふりをして、聴く事ができない。彼女はその曲を聴くことで、自分のだめな部分と向き合うことがわかっていて、苦しくて、逃げるしかなかったのです。
朝海は、彼が自分に頭を下げてまで、別の人とやっていきたいと言っているのを聞き、この人はそれほどまでに自分と離れたいのだと実感したとき、初めて、「プレブロマティカ」を聞きます。嫉妬で内蔵が焼き切れそうになりながらも、朝海は気付きます。自分が負けたのは、彼が新しくやっていくと決めた相手ではなく、高みを目指す彼自身だったのではないか、と。
でもそんな朝海にも微かな光がさす。そんな描写でこの物語は終わります。

5つの物語は1つ1つが完結しています。そんな彼らに共通するのは、それぞれが何かを抱えていながらも、そんな自分を認めていること。はじめ目をそらしていたことにも次第に向き合っていき、自分を認められるようになって行く過程が描かれています。

作者が読者に、誰もが自分自身の人生の主人公なのだと、悩んでいるのは決してあなた一人ではないと、応援してくれているようなあたたかい気持ちになります。

きらきら輝いて見えるあの人も、いつも笑っているあの人も、いくつかの傷を抱えて、笑っているのかもしれません。
そんな当たり前のことを噛み締めて、また明日も頑張って行こうと思える、そんな素敵な物語たちがこの本には詰まっています。

神様のケーキを頬ばるまで

  • 著者:彩瀬 まる
  • 出版社:光文社
  • 発売日:2014/2/19

モデルプロフィール

mana_profile
  • 名前:真奈
  • 生年月日:1994/1/16
  • 出身地:静岡県
  • 職業:タレント
  • 一言:愛してください♩
  • 最近の悩み:やせない
  • Twitter:@manatmnt

(カメラマン・Rimi Sakamoto/個人サイト・http://www.rimisakamoto.net/

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WRITERこの記事を書いた人

渕田 悠子

アッパー系な会社に勤めながらもインドア派を貫く社会人3年目。本の虫だった母の影響で、幼少期からの趣味は読書。読むのはもっぱら小説と漫画で、今のお気に入りは大好きな後輩におすすめされた、よしながふみ先生の『フラワー・オブ・ライフ』と、会社の先輩におすすめされた原泰久先生の『キングダム』。二作とも、私の心を震わせまくった作品です。 皆さんに、心が震える最高な本との出会いを提供できればと思ってます。