囲炉裏端で語られる怖い昔話のよう。『山怪 山人が語る不思議な話』で教訓と背筋の寒さをどうぞ

「光る球体がふわふわしていた」、「木を切り倒す音がして目を凝らすが、そこには誰も、何もない」、「自宅の近くで道に迷ってしまう」。昔話で聞きそうなシチュエーションばかりですよね。これを実際に体験したという方たちの話を集めたのが、今回紹介する「山怪」です。

山怪 山人が語る不思議な話

  • 著者:田中 康弘
  • 出版社:山と渓谷社
  • 発売日:2015/6/6

「山怪」は今も山にいる

「山怪」、それは、山に住む妖怪のことです。山で起きた不可思議なこと、科学で説明できない何か、それをまとめて「山怪」と表現しています。

私はもう四半世紀にわたり、山関係、狩猟関係の現場を歩いている。現場では山での不可思議な出来事の類い、大蛇や狐に関する謎の現象譚を聞くことが時々あった。

(中略)

たわいもない話であり、聞けば“そんな馬鹿なことがあるか”と一笑に付す人も多いだろう。

話し手はほとんどが高齢の方ばかり。「そんな馬鹿なこと」なので話し手に口を開かせるのは一苦労だったそうです。高齢になり分別があるがゆえに、馬鹿にされるかもしれない話はしづらいことでしょう。それも知り合いしかいない田舎で生きてきた方たちが、余所者に語るのは抵抗感が大きかったと思います。その苦労を重ね、たくさんの体験談を集めたのが本書です。

「昔、あるところに~」と始まりそうな、I章

「I 阿仁マタギの山」では、先述した昔話で聞いたことのあるような話が収められています。阿仁は秋田県の北部の旧地名、マタギは山の漁師のことです。涼氏本人や、集落の方から伺ったお話がまとまっています。

狐は「狐火」といわれる光の球を出して怖がらせたり、人を化かしてひどい目に合わせたりする。

狸は音をまねるのがうまい。ノコギリや、木を切り倒す音は昔からのものだが、最近ではチェーンソーなど文明に合わせて技を磨いている。

蛇は神様と言われることが多い。殺すと祟る。

I章の平和感はどこへ? II章、III章と章を追うごとに危険度が増していく

「II 異界への扉」は、少し物騒な話になってきます。子どもが神隠しにあったり、人を迷わせて死なせていたり。

「誰か先に来たやつがいるのか?」

 そんなことがあるはずはないと全員が思っている。なぜなら、その岩穴の周りには誰の足跡も付いていなかったからだ。

これはまだ序の口の怖い話です。山小屋で夜明かしをする話などは、登山経験者には背筋が寒くなる感覚が理解しやすいでしょう。むしろ、経験した方もいるかもしれませんね。

「III タマシイとの邂逅」は、さらに危険な経験談が集まっています。

“これからの数編は名前と場所を伏せることにする。つい近年の出来事であり、遺族の方が現地にご存命だからである。”

序文でこのように断られていることで、危険度は想像に難くないでしょう。II章のなかで一番近年の話として語られるものが10年前の話なのだから、伏せねばならないほどの近年とはどれほど最近のことなのでしょうか。

昔話でも、他人事でもない「怖い話」が詰まった一冊

最近では見なくなった、囲炉裏端に集まった孫に、おじいちゃん、おばあちゃんが語るようなお話。山で生きていくルールや危険を教えてくれるようなもの。本書では、現代ではめっきり見られなくなった、古い日本の家族で語り継がれる姿を思い浮かべます。その囲炉裏端の日が届かない位置、そこに何が“いる”のか――。郷愁を伴った寒気を感じられます。

山怪 山人が語る不思議な話

  • 著者:田中 康弘
  • 出版社:山と渓谷社
  • 発売日:2015/6/6

モデルプロフィール

  • 名前:福田千織
  • 生年月日:1996/9/24
  • 出身地:東京都
  • 職業:日本女子大学
  • 受賞歴:ミス日本女子大学 準グランプリ、フレッシュキャンパスコンテストJJ賞
  • 趣味:お買い物
  • Twitter:@ccccccccc_c

(カメラマン・伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

神谷京香

子どもの頃は200文字の作文にも苦労していたが、小学5年生の時にCLAMPさんの漫画に出会い、唐突に覚醒。いきなり2000文字以上の大作を書きあげるようになる。幼少時は童話で文字を、小学生の時は漫画で漢字と歴史を学び、高校生になる頃には弁当箱サイズのミステリ小説を読みあさるように。現在はジャンルを問わず活字なら何でも読む節操なし。趣味は寺社仏閣/滝めぐり、猫、夜散歩、声楽、一人カラオケ、日本酒とワイン。