大人の事情に潰された少年たちの夢と希望と、過去の傷『アンチェルの蝶』

大阪の港町で、掃き溜めのような居酒屋「まつ」を経営する藤太のもとに、幼馴染の秋雄と少女がやってきます。秋雄は、少年時代を共に過ごした幼馴染・いづみは死んだと言い、彼女の娘である少女・ほづみを置いて店を去ってしまいます。過去の希望の導であった「アンチェル指揮 『新世界より』」のCDを残して――。

翌朝のニュースで、秋雄とほづみが住んでいたマンションが放火され、秋雄は行方不明だと知ります。藤太は、昨夜のいやな予感が現実になったと感じます。それは決して杞憂ではなく、25年前に止まった歯車が、軋んだ音を立てて回り始めたことを示していました。

アンチェルの蝶

  • 著者:遠田 潤子
  • 出版社:光文社
  • 発売日:2014/1/9<

 少年時代に起きた事件が、全ての根源

小学5年生の藤太は、飲んだくれの博打打ちだった父親に代わり、居酒屋「まつ」を切り盛りしていました。父親の博打仲間の子供である秋雄といづみに出会い、同じ境遇の3人は強い絆で繋がります。大人に従わなければいけない不遇の暗い少年時代。それでも彼らは未来に希望を抱いていました。その将来の希望を託した「アンチェル指揮 『新世界より』」の音楽と、「蝶の蛹」の羽化。

あのネジ工場が焼け落ちたのは、もう二十五年も前、風のない冬の夜のことだった。

今から25年前、藤太と秋雄、いづみが中学3年生だった頃に、事件は起きます。そこで歯車は狂いだし、卒業後に別々の進路を選んだ3人は、交わることなく、忘れることもなく時だけが過ぎて――。

25年の時を超えて回りだした歯車は、藤太とほづみの暮らしに影を落としていく

藤太は、心から軽蔑していた父親と同じ、酒飲みの最低な大人になっていました。ほづみを預かることになり、女の子の扱いが分からず戸惑う藤太。向き合おうと努力し、ほづみに店を手伝わせることにします。

いつの間にか、常連たちは孫ほどの年齢のほづみが働くところを懸命に眼で追っていた。

「掃き溜めに鶴や」ハンチングがうつむいたまま、ひとりごとを言った。

「いや、まだ鶴の子やな」牛乳割りだった。

 周りの客が驚いてふたりを見た。自分で返事をしておきながら、牛乳割りも驚いた顔をしている。

事情を抱えた常連客たちは、それまで会話をしませんでした。孫を思ってか、ほづみを介して繋がりを持つようになり、藤太が不器用ながらも子育てしているところを叱咤しながら見守ってくれるようになります。徐々に心を通わせていく藤太とほづみ。しかし、ここにも25年前の影が落ちてきて――。

大人の事情と過去の傷。涙なしにいられないラストシーン

夢と希望を砕かれた少年たちと、狂った歯車の落とす影。アンチェルと蝶が象徴する希望にすがりながらも、影に飲み込まれていく3人の姿が、現在と過去を行き来して描かれていきます。緻密な感情表現に揺さぶられ、読み終わった時は涙なしにいられないでしょう。

アンチェルの蝶

  • 著者:遠田 潤子
  • 出版社:光文社
  • 発売日:2014/1/9

モデルプロフィール

  • 名前:なつき
  • 生年月日:1998/8/21
  • 出身地:東京都
  • 職業:学生
  • 趣味:ドラマを見る
  • 最近の悩み:朝起きれない
  • (カメラマン:村井優一郎)

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本to美女選書

WRITERこの記事を書いた人

神谷京香

子どもの頃は200文字の作文にも苦労していたが、小学5年生の時にCLAMPさんの漫画に出会い、唐突に覚醒。いきなり2000文字以上の大作を書きあげるようになる。幼少時は童話で文字を、小学生の時は漫画で漢字と歴史を学び、高校生になる頃には弁当箱サイズのミステリ小説を読みあさるように。現在はジャンルを問わず活字なら何でも読む節操なし。趣味は寺社仏閣/滝めぐり、猫、夜散歩、声楽、一人カラオケ、日本酒とワイン。