『荒野へ』なぜ、裕福な青年はすべてを捨ててまで、荒野に魅入られたのか?

荒野へ

  • 著者:ジョン・クラカワー
  • 出版社:集英社
  • 発売日:2007/3

 

1992年、アラスカの奥地に単独で入っていく一人の若者がいた。
彼の名はクリストファー・ジョンソン・マッカンドレス。ワシントンD.C郊外の裕福な家庭で育った若者だった。学業の方も優秀で、1990年にエモリー大学を首席で卒業。
しかし、大学を卒業した直後に、彼は誰にも告げることなく姿を消した。
そして、2年後の1992年、アラスカの荒野で腐乱死体となって発見される。

恵まれた環境で育ったマッカンドレスは、なぜ家を捨ててまで、荒野の世界で生きることを選んだのか?
傍から見たら、無知な若者が単身でアラスカの大自然に挑み、おろかにも死んでいったかのように思える。しかし、彼の死はアメリカ中の人々を震撼させることになった。

家族は彼がアラスカで遺体となって発見されるまで、どこにいて、どこへ行ったのかもわからなかった。マッカンドレスは名前を変え、2万4千ドルの貯金を全額慈善団体に寄付し、自分の車や持ち物をほとんど放棄し、現金もすべて燃やしてしまった。
すべてを放棄してまで、新鮮な自由を求めて放浪の旅を選んだのだ。

何が彼をここまで、荒野へと駆り立てたのか?

向う見ずな若者、変わり者と評価する人がいるかもしれない……
しかし、登山家でもある著者は、彼の生き方や境遇を自分と重ね合わせ、マッカンドレスがたどった心の軌跡を、取材を通じて浮き彫りにしていく。

荒野でひとり死んだのは、裕福な家庭で育った若者だった

sakai1ひとりの無名の若者の死が、これほどまでセンセーショナルに取り上げられたのは何故だろうか?2008年には「イントゥ・ザ・ワイルド」という映画化にもなっている。

荒野でひとり死んでいったのが、何不自由なく豊かな家庭で育った若者だったのことが理由のひとつに考えられる。

クリス・マッカンドレスの父親は苦学の末に、NASAの航空エンジニアとなり、その後、独立して企業家となった人物だった。クリスは父親が築き上げた裕福な家庭で、人々が羨ましがるような教育を受けていた。

筆者はクリスの周りの人々に話を聞き、彼に影響を与えたトルストイの著作について言及している。彼が魅了したのは、豊かな特権階級の生活を捨てて、貧しい人々の間を放浪した偉大な作家の生き方だった。大学時代から禁欲的なトルストイの生き方を真似るようになり、彼の禁欲ぶりは周囲が不安に思うほどだったという。

「これは経験であり、思い出であり、精一杯生きることのすばらしい勝利の喜びである。
そのなかに、真の意義があるのだ。神よ、生きていることはすばらしい!」

マッカンドレスがこう日記に記したように、自ら進んで荒野へと入っていったのだ。
理想主義者的な考えを持っていたクリス・マッカンドレスは自分の理想する生き方を追い求めるために荒野へとひとり入っていく。

すべてを捨てた先の……孤独な死

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この本の著者は登山家であり、20代の後半、長い期間山を登ることだけに費やしてきたという。
うまくいかない人生を根底から変えてくれると思い込んでいたと語る筆者。
しかし、なにひとつ変わらなかった……

登山家である筆者はアラスカ冒険旅行で死にかけた経験がある。
自分は生きて帰り、クリス・マッカンドレスは命を落としたという事実は偶然でしかないと語っている。
マッカンドレスの場合、父親への反抗から家を出たように思えるが、
それは単なるきっかけにしかすぎなかった。本能的に奔放な情熱が彼を突き動かし、それに従って、誰にも告げることなく、家を飛び出したのだ。

すべてを捨てて、別の場所へ行きたい
誰も自分を知らない場所へ行きたい

多くの人が一度はこう思ったことがあるのではなかろうか?
クリス・マッカンドレスという無名の若者は、実際にすべてを捨てて放浪の旅に出ていった。その先にあったのは荒野での孤独死だったが、彼の死をひとりの無謀で無知な若者の軽率な行動と捉えるか、人生を素直に生きた若者の死と捉えるかは読者次第だ。

窮屈に文明社会のなかを生きることに耐えられなかったマッカンドレスは、自由に生き、そして死んでいった。そんな彼の生き方に学ぶことは多いのではなかろうか?

今週の悩み「人生を変える旅に出たい」

  1. 自分の中の荷物を捨てていく。窮屈な社会に埋もれて苦しくなった時には、無理にすべてを捨ててまで旅に出ることも時には必要。
  2. トルストイの禁欲的な生活を学ぶ。時には自然の中で、鳥のさえずりに感動することが人間には重要。
  3. 金や名誉に囲まれた生活は人間的な幸福に結びついているとは限らない。
    自分が心から望むことを探していくこと。

荒野へ

  • 著者:ジョン・クラカワー
  • 出版社:集英社
  • 発売日:2007/3

 

モデルプロフィール

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  • 名前:酒井瑛莉
  • 生年月日:1993/12/07
  • 出身地:東京都
  • 職業:大東文化大学
  • 出演歴:ミス大東2013ファイナリスト
  • 趣味:映画鑑賞、書道
  • 最近の悩み:生き方
  • Twitter:@Erio875

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WRITERこの記事を書いた人

kikuchan

6月9日(ロックな日)生まれ。 映像制作会社勤務。TSUTAYAから年賀状が届くほどの映画マニア。年間350本の映画鑑賞。 「映画ばかり見てないで、勉強しなさい」と言われて育つ。 学生時代は映画の新人賞受賞。文学だけでなく、あらゆる本を読むようにしてます。 好きな本:『竜馬がゆく』『スティーブ・ジョブズ』 趣味:座禅