犬の心臓
- 著者:ミハイル・A・ブルガーコフ
- 出版社:河出書房新社
- 発売日:2012/1/24
「記憶に残る海外文学」と題打ち、6冊目となった。
今回ご紹介する本はロシア文学。『巨匠とマルガリータ』で有名なブルガーゴフの作品で『犬の心臓』という。
物騒なタイトルだが、その内容もある意味でグロテスクに仕上がっている。
本書が書かれた時代はロシアが社会主義国として猛威を奮っていたときで、作家としてブルガーゴフは自分は何ができるかと考えていた。その背景の中出版された『犬と心臓』はあまりに政治批判が強いと政府が判断し、なんと国内で販売禁止になってしまったのだ。
ユーモアとシニカルが融合した政治色の強い小説が本書だ。
ある日、死にかけの野良犬がいた

物語はある日、死にかけの野良犬が一人の男の前に倒れ込むところから始まる。
犬はその日食うものもままならぬ植えた野犬だった。ごみを漁ろうとウロウロしていたところ、見知らぬ人に熱湯を掛けられまさに虫の息。
「ほお、お前のような野良犬を探しておったよ」と、通りかかった男の名をブレオブラジェンスキー教授という。
この教授は恐ろしいことを考えており、人の脳下垂体と睾丸を犬に移植したらどうなるのか……禁断の実験を計画していた。目的は意外にもまっとうで、脳下垂体は若返るのかどうか。それを犬への移植もって実験しようというのだ。
簡単に言えばこの物語は、人の脳を移植された犬がどう生きていくのかを見る話だ。そこに政治批判が加わった話だと解釈してもらえると分かりやすい。
彼は犬なのか、人なのか

人の脳を移植された犬は「シャリク」と名付けられた。
移植されたては犬としての本能が強く残り、助けてくれたブレオブラジェンスキー教授に従順な姿を見せる。しかし、時が経つにつれ毛が抜け、二足歩行になり、コートを羽織り、人間の言葉を話すようになっていくシャリク。
教授をはじめ、周囲の人間たちも気味悪がるようになり「取り返しのつかないものを生み出してしまった」とばかりに手に負えなくなる。
犬である身だが、人の脳が入っているため前の死んだ人間の考え方が基本となる。脳の前身だった男はアルコール中毒に溺れていたのだが、シャリクにもその傾向が現れるようになる。
また、本来は犬の体なので、猫を見ると異常に反応を示したり食事も汚くがっついたりとあくまでも犬なのだ。
俺は労働者を代弁して言うぞ

本書が発売禁止になった最大の理由として、痛烈な政府批判があり、読者たちを反抗へと感化させてしまう要素が挙げられる。
「おれはブルジョアじゃない」
そう主張する犬のシャリクは、あくまで自分は労働者階級だと言う。当時、ソ連の体制は社会主義国を謳っているのに、資本が最適に配分されていない事実を誰もが抱いていた。
しかし、それを声を大にして唱えると粛清されてしまう恐れだってある。
だから作家のブルガーゴフは「娯楽」に隠れて、政治主張をしていった。
まるでチャップリンがドイツを皮肉りながら人々に笑いを届けていたかのように。
『犬の心臓』の強さは政治批判のために出版された小説の意味だけではなく、しっかりとSF的奇想天外さが含まれている娯楽性にある。間違いなく、「記憶に残る海外文学」だ。
犬の心臓
- 著者:ミハイル・A・ブルガーコフ
- 出版社:河出書房新社
- 発売日:2012/1/24
モデルプロフィール

- 名前:中山美織
- 生年月日: 1993/12/13
- 出身地:東京都
- 職業:早稲田大学
- 受賞歴:ミス理系2013特別賞
- 趣味・一言:アニメ、映画鑑賞、一人旅
- 最近の悩み:実験に飽きた
- Twitter:@miori_micharyo
- Insta:@miori_micharyo
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