一九八四年
- 著者:ジョージ・オーウェル
- 出版社:早川書房
- 発売日:2009/7/18

1週間に一つの悩みを設定し、解決に役立つ7冊を紹介してきた本to美女でありますが、今週は「解決」なんて気張らずに気楽にやっていこうと考えています。
今週のテーマは、「秋の夜長に感じてしまうそこはかとない寂しさを埋める本」として、私が面白かったなあと思った本を取り上げていきます。
そういうわけで、これから書いていく文章の言いたいことはたった一つ。
「面白いから読んでみて」
物語の持つ力

世の中に何かを訴えかけようとする時、あなたはどのような手段を使いますか。
パッと思いつく候補としては、youtubeなどの動画サイトやtwitter,FacebookなどのSNSを利用して自分の意見を発信するといったものでしょう。インターネットが普及した現代においては、自分の意見を誰かに伝えることは、これまでの時代と比較すると格段に容易になりました。もちろん、多くの人が情報を発信するようになることによる弊害も存在していますが、総合的に考えれば利益の方が大きいといってよいでしょう。
本書1984年はこうした誰もが情報の発信者となりえない時代の中で書かれた作品です。1949年にイギリスで発行された本書は、第二次世界大戦を終え東西冷戦へと突入した頃の世界情勢への不安や懸念といった感情が反映されているのではないかと推測される箇所が多々あります。全体主義の薄気味悪さをひしひしと感じられる物語の序盤はその代表例といってもいいでしょう。
書き手の思いを伝える手段としての物語は現在でも十分大きな力を持っていると私は考えていますが、その他の手段の種類が少なかった本書執筆当初においては、その影響力は現在とは比べものにならないくらいに大きかったのではないでしょうか。

毎年ノーベル賞発表の段階で話題に上がる村上春樹さんの小説「1Q84」もタイトルからして本書の影響を受けていることが分かりますし、作中に登場する「ニュースピーク」などの独特の言葉の中には実際の政治に対する用語として用いられるものもあります。優れた物語は後世の人々の思考に大きな影響を与えますが、本書は影響力という観点から見てもSF界の代表作ということができるでしょう。
社会へ訴えかける方法としての物語の影響力について考えてきましたが、以下では本書の語り口について少し触れたいと思います。
抽象と具象の間に

強いメッセージを持つ物語は時として抽象に偏り、読者を置き去りにしてしまうことがあります。自分の伝えたいことは、ありとあらゆる人に、場所に、時代に共通であると主張しようとすると、特定の場合にしか成り立たない具体的な描写を回避したいという心理が書き手の側にはたらくのです。逆に具体に偏ると、分かりやすさという点では利点がありますが、伝えたいメッセージを明示するために記述の量が膨大なものになってしまい、この場合もまた読者は途中で置き去りになってしまいます。
抽象と具象の間を適切に往復すること、これが人に何かを伝える時の肝であると私は考えています。
本書では抽象と具象のバランスが非常によく取られていると思います。主人公ウィンストン・スミスが務めるのは「真理省記録局」というなんとも抽象度の高い名称の機関です。しかしそこでの日々の業務は、「ビッグ・ブラザー」率いる与党にとって都合の悪いデータを改ざんするという多くの人にとって身近な「嘘をつくこと」がメインとなっています。一瞬実態がつかめない不安に襲われるも、次の瞬間にはあまりに身近な事象がやってくるというこのバランス感覚が読者を置き去りにせず、物語のクライマックスまで引っ張っていく力のひとつになっています。
全体主義的な社会の中で、服従を強いる中央に対して反感を抱くもそれを表に出せずにいた主人公ウィンストンが、「憎悪」の対象となっている伝説的な裏切り者が組織した反政府組織に引かれながら逆らえぬ流れに翻弄されつつも流され切らない物語は、日々の生活に不満を抱きながらも「しょうがない」と諦めている人に何かをもたらしてくれるかもしれません。
自分という存在は決して大きなものではないけれども、無力というわけでは決してない。
万能感はなくとも確かな手応えを大切にしながら、この時代を生きていきたいと思える一冊です。
一九八四年
- 著者:ジョージ・オーウェル
- 出版社:早川書房
- 発売日:2009/7/18
モデルプロフィール

- 名前:斉藤初音
- 生年月日:1995/6/16
- 出身地:大阪府
- 職業:慶應義塾大学
- 受賞歴:keiocollection2015
- 一言:頑張ります!よろしくお願いします。
(カメラマン:伊藤広将)
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