せつなく、優しく、露わになった心をそっと包む『プールの底に眠る』

プールの底に眠る

  • 著者:白河 三兎
  • 出版社:講談社
  • 発売日:2013/4/12

1週間に一つの悩みを設定し、解決に役立つ7冊を紹介してきた本to美女でありますが、今週は「解決」なんて気張らずに気楽にやっていこうと考えています。

今週のテーマは、「秋の夜長に感じてしまうそこはかとない寂しさを埋める本」として、私が面白かったなあと思った本を取り上げていきます。

sakai3

 

そういうわけで、これから書いていく文章の言いたいことはたった一つ。

「面白いから読んでみて」

寂しさとどう付き合っていくのか

sakai1

寂しさ、と言葉にすれば一つの表現に収まってしまいますが、その形は一つ一つ異なっていて特有な色合い・匂い・手触りがあると思います。お祭りの最中の裏路地、冷たくなってきた風に乗って微かに届く金木犀の香り、あらゆる音を吸い込んでしまう真っ白な雪、手のひらに触れる散りゆく桜など、繰り返す季節でさえも全く同じものは何一つない。そう思うと、自分の立っている場所が不確かになって崩れていくような言いようのない不安と寂しさを覚えます。

とりわけ秋は、夏の殺意すら感じた太陽の光が弱まるにつれて、日々暮らしていく世界がだんだんと活力を失っていくような、そんな不思議な心細さを鮮明に感じることがあります。

捉えどころのない寂しさに形を与えるために、誰かを、何かを探すのも一つの手ですが、思い切ってよく分からない寂しさの真ん中に飛び込んでいくこともたまにはあって良いのではないかと思います。

そっと世界を後にするイルカと木にへばりつくセミ

sakai2

眠れない夜にあなたは何を考えますか。
うららかな日差しのもとで羊が柵を飛び越えていく様子でしょうか、それとも駆け抜けていく光も追いつけない宇宙の果てでしょうか。
主人公の「僕」は年老いたイルカになって海を泳ぎます。

「僕」が高校生最後の夏休みに裏山で出会った可憐な少女は、音もなく迫る不安に別れを告げるために星々を動かす偉大なる宇宙の力-重力-によって己の命を絶とうとしていました。その場に居合わせてしまった「僕」は早々に用事を済ませて、何も見なかったことにしようとしますがそうはいかず、結局彼女に向きあうことになります。

これから死のうとする彼女に「僕」はなんとなく、眠れぬ夜に考えるイルカの物語を聞かせました。不思議そうに見つめる彼女は何を思ったのか、白く、長く、すうっと伸びた彼女の首を輪になった縄が締め付ける……ことはなく、ことの成り行きを知ることになった「僕」は彼女に「イルカ」と名付けられます。「イルカさんも私に名前をつけて」とお願いされた「僕」は彼女に「セミ」と名付けます。「名前っていうのは付けられるもので、名乗るものじゃない」と宣言した通り、二人はお互いを「イルカ」と「セミ」と呼びあうようになります。

「イルカ」と「セミ」は、それぞれがそれぞれに痛みを抱え、それぞれのやり方で寂しさに向き合おうとしてきました。偶然出会ったはずの二人の過去は次第に重なって今へと、そして未来へと繋がっていきます。

なかったことにしようとしても、正面から向き合ってみても、何をしても消えない痛みばかりが目についてしまう自分を変えるのは、過ぎていく時間でもなければ成長した自分でもないのかもしれません。

足元の影ばかり見つめていた日々が、いつかきっとやって来る夜空に輝く星の光を見上げる瞬間へと姿を変えるまで、ゆっくりとゆっくりと歩んでいく苦しさを思いやる誰かに人は救われるのかもしれません。

せつなく、優しく、露わになった心をそっと包む、この物語はあなたにそんな思いをくれるかもしれません。

プールの底に眠る

  • 著者:白河 三兎
  • 出版社:講談社
  • 発売日:2013/4/12

モデルプロフィール

sakai_profile
  • 名前:酒井瑛莉
  • 生年月日:1993/12/07
  • 出身地:東京都
  • 職業:大東文化大学
  • 出演歴:ミス大東2013ファイナリスト
  • 趣味/一言:映画鑑賞、書道
  • 最近の悩み:生き方
  • Twitter:@eriolol7

(カメラマン・Rimi Sakamoto/個人サイト・http://www.rimisakamoto.net/

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします