『What if?』〜もしもの世界〜 元NASAの科学者、思考の限りを尽くし現実逃避を極める!

What if ? 突拍子のない「もしも」の世界

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「もしも〜だったら」という言葉を聞いた時、僕が真っ先に思い出すのは高校の英文法の授業だ。「もしも僕が鳥だったら、今すぐ君のもとに飛んでいくのに」という気取った例文を耳にする度に、もし僕が鳥だったらこんな退屈な授業を抜け出して大空を飛び回るだろうに、いまひとつ垢抜けない街を飛び出してまだ見ぬ空へと羽ばたいていくのに、と想像を巡らし時間をやり過ごしたものだ。

この「もし鳥」例文がランドールの耳に入るとどうなるのか。おそらくこんな感じだろう。

平均的な日本人男性の体重が70kgと仮定すると、100m上空を飛行するのに必要な力はxNであり、平均的な成人男性の筋繊維の構造を考慮すると、この力を生み出し大空を自由に飛び回れるのは、恐ろしく発達した胸筋の持ち主であろう。きっと彼は文字通りの、「ハトムネ」であるはずだ。こんな男が上空から突然自分のもとに舞い降りたら、大抵の女の子は恐怖に顔を歪めながら逃げ出すにちがいない。自慢の鍛え上げた肉体のせいで彼女に避けられるとは飛んだ皮肉である。徒歩で向かうことを強くオススメする。

元NASAの科学者ランドールにかかれば、退屈な日常を紛らわすしょうもない想像は、科学的知見に基づいた、頭のネジが吹き飛ぶような刺激的エピソードへと姿を変えるのだ。高校時代の僕と同じように、時間がただ過ぎていくことを願っている人たちに、もう一度考える喜びを、目に映る全てが鮮明で想像力をかきたてた子供の頃のような色あざやかな世界を取り戻すことが、彼の隠された願いなのかもしてない。

身近なエネルギーを突き詰めて考える

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この本は、ランドールのウェブページに寄せられた突拍子もない、空想的な質問に回答していく形式をとっている。日常の中でよく目にする事象を極端なまでに突き詰めたものや、どうしてそんなことが思いついたんだ、というものまで70を超える質問が含まれている。こうした質問に対し、彼は嘲笑と侮蔑の代わりに、純粋な知的好奇心、徹底した論理的思考と豊富な科学的知識でもって回答していく。

さて、このあたりで1つ、ランドールの知識と想像力を総動員した僕のお気に入りの「What if ?」を紹介しよう。あなたはこの先、この場面に遭遇した時必ずやこのやりとりを思い出して破顔するにちがいない。

タイトルは「お茶をかき混ぜる」だ。

質問者はこう尋ねる。「先日、カップに入った熱いお茶をぼんやりとかき混ぜていたのですが、そのときふと、『あれ、じつは僕は、このカップのなかに運動エネルギーを加えてるんじゃないのかな?』と思ったのです。普通かき混ぜるのはお茶を冷ますためですが、もっと速くかき混ぜたらどうでしょう?かき混ぜることでカップのお茶を沸騰させることはできますか?」

想像してほしい。毎日似たような書類に目を通し、目に見える変化といえば机のそばの窓から見える木々の葉の様子だけ。こんな退屈な仕事やめた方がいいのかな、と悩みながら唯一の息抜きであるおやつの時間にお茶を淹れながら突飛なアイデアを思いついた時の質問者の顔を。何阿呆なこと考えてるんだか、と自嘲しながらも口角は自然と上がっていたことだろう。

そんな様子を知ってか知らずかランドールはこう答える。沸騰させることはできない、と。エネルギーはいくつもの形をもっていて、温度が運動エネルギーの一形態であることからして基本的な考え方は正しいと認めながらも、質問者の加えたエネルギーが極めて小さいために沸騰するには至らないと結論づけた。

しかしここで終わらないのが彼の彼たる所以である。ではどうすれば沸騰するのか、彼の想像力は思考の大海を泳ぎ始める。

手始めに室温にある水を2分間で沸騰させる熱量を求めた後、その熱量を獲得するにはどのような手段をとるべきか検討していく。そうしてたどり着いたアイデアは、大気圏のさらに上からカップを抱えて真っ逆さまに落下するという、お茶をこよなく愛するイギリス人であってもまず思いつかない決死の策であった。高度や重力加速度、水の比熱を用いて導かれたこの「科学的」な結論をどう受け止めるのか、そして実行するか否かはあなた次第だ。彼はまだまだ考えることをやめない。

よほど卑屈でない限り、大抵の人は自分の命はコップ1杯のお茶よりも価値があると信じていると踏んでのことだろう。何らかの超人的な能力を持つ人が、猛烈な勢いでスプーンを動かして毎秒数万回かき混ぜたら一体どうなるのかをシミュレーションし始めるのだ。そしてこう結論づける。流体力学の効果が障害となり、お茶はキャビテーションを起こすであろう、と。簡単に言うと、お茶がそこらじゅうに散らばって温めるどころではないでしょう、ということだ。

この拍子抜けする結論をあなたはどう思うかはわからないが、これからお茶をかき混ぜる人を見かけるたびに、ランドールの思考過程を思い出して、飛び散るお茶にまみれて呆然とする様子を思い描き、少しだけ日々の生活が面白いものになるのは間違いないだろう。

こうした日々の気づきにしっかりと目を向け、考えることを楽しみ、遊び心をもって過ごすことができれば、あなたはきっと明日が来るのを待ち遠しく思うようになるだろう。

進化する僕の想像力

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むわっとした熱気の漂う車内から、結露した窓を拭い物言わぬ電光掲示板を眺める。運転再開見込みのない電車内にいる僕はこう思うのだ。「もしも僕が鳥だったならば、家までひとっ飛びなのに」と。2mはあろうかという恐ろしく発達した胸筋を持つ僕がドアを飛び出し、夕暮れの空へと羽ばたいていく様子を思い描きニヤついている間に、エンジンは唸りを上げ再び動き出した。「さあ、明日に備えて今日は早く寝よう。」

今日のポイント

  • 身近な疑問を徹底的に考える
  • そこからさらに想像力を働かせる
  • 最後はちょっと遊び心を加える

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

  • 著者:ランドール・ マンロー
  • 出版日:2015/6/24
  • 出版社:早川書房

モデルプロフィール

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・名前:飯島しずか
・生年月日:1992/04/12
・出身地:埼玉県
・職業:日本獣医生命科学大学
・受賞歴:ミス理系コンテスト2014ファイナリスト
・趣味・一言:学祭ではドッグショーがあります!
・Twitter:@shizuka_nvlu

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