感想を思い通りに語りたいあなたへ『小説の読み方』

小説の読み方

  • 著者:平野 啓一郎
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日:2009/3/14

「その小説、どうだった?」
「めっちゃおもしろかった! やばい!」

いつもこうなってしまう。本当は心の奥底から揺り動かされるような小説だったとしても、いざ人に伝えようとすると、「感動した」とか「泣けた」くらいしか出てこない。
こんな経験をしたことのある人が、私以外にもきっといるのではないだろうか。読んだ小説のおもしろさを誰かに伝えたいのに、上手く伝えられないのはもどかしい。

そんなもどかしさを解決するべく、最新刊『マチネの終わりに』がヒット中の小説家・平野啓一郎氏が書いた『小説の読み方』から、感想が語れる着眼点を学んでみよう。

本書は、考える手立てを知る「基礎編」と、9作の小説を解説する「実践編」で構成されている。今回、実践編からは、ケータイ小説『恋空』の解説をピックアップした。

まずは、基礎編から大きく2つのポイントを見ていこう。

「4つの質問」から小説を考える

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筆者は、動物行動学者のニコラス・ティンバーゲンの示した「4つの質問」が、小説を読む時のアプローチとしても有効だと説明する。
小説に当てはめて考えた場合、下記のようになる。

①メカニズム
舞台設定、登場人物、プロットの展開、文体……など、小説を動かしている仕組みについて考えること。

②発達
その作家の人生のどういうタイミングで、その作品が出てきたのかを考えること。

③機能
その小説が、読者に対してどんな意味をもっているのかを考えること。
例えば、ミステリーや恋愛小説などのジャンル分けが、この「機能」を単純化して示したものにあたる。

④進化
社会の歴史や文学の歴史の中で、その小説がどんな位置づけにあるか考えること。

上記の4つは、必ずしも網羅する必要はないが、感想を語ろうとするときにはぜひ知っておきたい着眼点だ。

小説をつくる〈大きな矢印〉と〈小さな矢印〉

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もうひとつの考え方を、筆者は〈大きな矢印〉と〈小さな矢印〉という言葉で説明する。

私たちは小説を読むとき、冒頭の1行から順にページを右から左へ読み進め、最後の1行にたどり着く。筆者は、これが小説のプロット=〈大きな矢印〉だと説明する。

この〈大きな矢印〉は、無数の〈小さな矢印〉の積み重ねによって形作られている。
具体的に選びとられた〈主語〉を「この◯◯は、……だ」と言われると、続きが知りたくなる。その続きに相当するのが〈述語〉だ。例えば、「犯人は、……だ」という〈述語〉の回収を目指す場合、それはミステリー小説になる。

私たちは、この〈主語〉+〈述語〉の間にある〈小さな矢印〉を読み進めながら、「この小説は、……だ」という自分なりの〈述語〉を得るために、最後の1行までたどり着く。
つまり、〈大きな矢印〉とは、タイトルを主語とした「……だ」という究極の述語に至るまでのことだ、と筆者は述べる。

本書では、上記のような考え方にもとづいて、実際に小説を読み解いていく。

ケータイ小説『恋空』をどう読むか

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本書の「実践編」では、綿矢りさ『蹴りたい背中』や、伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』などの有名作品が解説されているが、ここでは1つとても興味深い解説をピックアップしよう。

かつて爆発的ヒットを巻き起こしたケータイ小説『恋空』だ。

ドラッグやレイプ、妊娠中絶、ガンなどの内容がフィーチャーされがちな『恋空』だが、筆者は「相手が何を考えているかわからない」というコミュニケーション不全が一貫したテーマになっていると説明する。

主人公の美嘉とその恋人のヒロは、〈メール〉、〈電話〉、〈対面〉、〈ボディコンタクト〉という4段階のコミュニケーションを往復しつづける。
相手の身体から発せられる情報が欠落するほど、誤解の余地は増える。絶えずケータイでつながっている2人は、メールで誤解を生み、会って誤解を解くことをくり返す。

こうした流れの中で、「ヒロは、……だ」という1文がいつまで経っても完成しない。その部分に当てはまる〈述語〉を探すこと自体が物語を前進させていくのだ。
そして、最後にその〈述語〉が読者に与えられて、これまでの謎が解決することになる。

「基礎編」の内容を使って読み解くと、『恋空』がこんなふうに読める。『恋空』が小説として、これまでとまったく違ったものに見えてくるのではないだろうか。

小説をここまで読み解くことができれば、思い通りの感想も語れるようになるだろう。
なにより、これまでよりもずっと、小説を読むことが楽しめるようになるに違いない。

小説の読み方

  • 著者:平野 啓一郎
  • 出版社:PHP研究所
  • 発売日:2009/3/14

モデルプロフィール

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  • 名前:黒津みなほ
  • 生年月日:1997/2/10
  • 出身地:横浜
  • 職業:國學院大学
  • 趣味:読書
  • 最近の悩み:悩みをすぐ忘れること
  • Twitter:@rangerppink
  • Instagram:@374_purple

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

綾本 ゆかり

フリーライター。早稲田大学在学中はファッション誌のライターをしつつ、学生団体でフリーペーパーを制作。社会人になってからはWebゲームを作っていましたが、うっかり辞めてライターに。音楽とフェスが好き。読書は1日1冊(目標)。好きな作家は金原ひとみ。