私たちはなぜ物語を読むのか?『夜を乗り越える』

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夜を乗り越える

  • 著者:又吉 直樹
  • 出版社:小学館
  • 発売日:2016/6/1

社会人になった私たちに、小説は必要ないのだろうか。

昨年12月に開催された本to美女の女子限定読書会に参加して、私はそう思った。
幅広い層の女子たちが集まったこの読書会では、テーマを思い思いに解釈し、自分の1冊を持参していたのだが、ほとんどの大学生は小説を、社会人はビジネス書を持ってきていたのだった。

貴重な時間を使うのだから、直接的に役に立つ本を読もうと考える気持ちも理解できる。でも、小説は役に立たないものなのだろうか。社会に出た私たちは、もう小説を読む意味がなくなってしまったのだろうか。
そういえば、私たちは何のために物語を読むのだろう。

そんな疑問に対して、真っ向から考えた一冊の本がある。お笑い芸人でありながら、小説『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹氏の『夜を乗り越える』に、そのヒントをもらおう。

太宰という人はなぜ僕のことがわかるのだろう

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本書は、又吉氏の文学との出会いからスタートする。

小学校時代、本当はこんなキャラクターではないと思いながら、明るく振る舞ったり、喧嘩をしたりしながら、誰にも相談できず、ずっと自分の中だけで考え続けていたという。

そんな彼が中学2年のとき、太宰治の『人間失格』に出会った。

内容もさることながら、頭の中でずっとしゃべっている人達がいる。ずっと考えている人達がいると知れたことが、僕は本当に嬉しかった。僕だけではなかった。みんなひとりで考え、悩み、行動している。

自分の頭で考え続けていたことが、本の中に書かれている。「なぜ僕のことがわかるのだろう」と不思議に思い、夢中になった。こうして『人間失格』は、彼にとって特別な本になったという。

それから彼は、自身の不安や葛藤を消化することを求め、本を読み続けた。これが、彼にとっての文学との出会いだった。

お笑いにも通じる「あるある」という共感

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又吉氏は、本が持つ2つの魅力をあげる。

1つめは、普段なんとなく感じているけれど、自分の中にある曖昧で細かな感覚が、文章で的確に表現されたとき。つまり「共感」だ。

又吉氏らしく、これをお笑いの「あるある」に例える。
あるあるネタで起こる共感の笑いというのは、誰もがわかっていることではなく、「そういえばそうだ」とか「そうかもしれない」というポイントだという。

つまり、わかっていることをわかっている言葉で書かれても、あまり共感は起こらない。
多くの人が言葉にできずにいる複雑な感情が明確に描写されたとき、私たちは自分の中にある感情を整理することができる。それが、本を読むおもしろさの1つだ。

「共感」はおもしろさの半分。残りは「発見」

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魅力の2つめは、今までなかった視点が自分の中に増えるとき。「発見」だという。

物語に対して「私は共感できなかった」という感想はよく耳にする。
しかし、又吉氏はこういった「自分の感覚にはまるものがおもしろい、それ以外はおもしろくない」という読み方をすると、本を読む魅力が半減してしまうと述べる。

物語の中で、主人公が自分とは違う選択をしたり、今まで自分が信じて疑わなかったことが否定されたりする。その時、それについて考えることで、視点が増えたり思考の幅が広がったりする。それが「発見」だ。

又吉氏が言うには、「共感」は読書のおもしろさの半分。残りの半分は、この「発見」だという。
「共感できない」という感想に心当たりのある人は、それこそがむしろ自分の幅を広げる可能性があると意識すれば、読書がこれまでの2倍おもしろくなるかもしれない。

今の自分が一番おもしろく読める

又吉氏は、中学2年で出会った『人間失格』を、その後何度も読み返し、上京してからは縁起担ぎとして毎年一冊目に読むと決めていた。
すると、毎年読むごとにおもしろくなっていることに気づいたという。

30代になってから読み返すと、10代の頃にも20代の頃にもできなかった発見がある。それは、当時おもしろいと感じた部分は、その時の自分が持っていた目線で見たものであって、年齢を重ねたからこそ理解できる部分が現れてくるということだ。

つまり、過去の自分よりも、今の自分が一番おもしろく読める。

もしあなたが昔に比べて小説を手に取ることが少なくなったと感じるなら、好きだった小説を久しぶりに読み返してみるのはいかがだろう。
そこには、きっと現在の自分ならではの「共感」や「発見」があるはずだ。

夜を乗り越える

  • 著者:又吉 直樹
  • 出版社:小学館
  • 発売日:2016/6/1

 モデルプロフィール

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  • 名前:藤野奈々
  • 生年月日:1995/8/6
  • 出身地:三重県鈴鹿市
  • 職業:三重大学工学部三年
  • 受賞歴:ミス総理大臣コンテストファイナリスト
  • 趣味/一言:茶道が趣味で、カメラマンとしても活動中
  • Twitter:@nac5_sori
  • Instagram:@nal_c5
  • Facebook:https://m.facebook.com/dotjpmie/
    若年投票率向上を目指す団体、NPO法人ドットジェイピーにて三重支部代表を務める。四月からはリクルートユニットマネージャーとして、全スタッフの採用部門のマネージャーを務める。

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WRITERこの記事を書いた人

綾本 ゆかり

フリーライター。早稲田大学在学中はファッション誌のライターをしつつ、学生団体でフリーペーパーを制作。社会人になってからはWebゲームを作っていましたが、うっかり辞めてライターに。音楽とフェスが好き。読書は1日1冊(目標)。好きな作家は金原ひとみ。