文豪たちにユニークに反論する『自家製文章読本』

自家製文章読本

  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:新潮文庫
  • 発売日:1987/4/28

本書を一言で

井上ひさしが文豪や研究者の理論を参照しつつ、独自の感性で説く文章読本

「文章読本」というテーマは何人もの大文豪たちが執筆している。谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、丸谷才一、中村真一郎、中条省平などがあげられる。

文章読本というと教科書のような堅苦しいイメージがある。
しかし、著者である井上ひさし氏にかかればあっという間にユーモアに富んだ本に変わってしまう。それでいて文章というものの真髄に触れるような深い内容にもなっており、笑わせられたり感心させられたりと充実の一冊となっている。

従来の文章読本では常識とされてきた内容を覆しまくっているのが本書の最大の特徴と言える。著者の文章に対する論考を追体験しながら、読者も文章の面白さや奥深さに触れることができる。

今回は文法ではなく、表現の上から日本語の文章を分析していく。文法についても触れるが、より実践的にどう使うかが重視されている。

「話すように書くな」

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文章の書き方の指南書の多くに「話すように書け」とある。宇野浩二も佐藤春夫も糸川英夫もそう言っている。
だが、著者はそれに反対する。話し言葉と書き言葉とはお粥と赤飯ほども違うのだと。

その理由のひとつとして、話し言葉は非常に柔軟なものであることが挙げられている。
話し言葉は実に70%が無駄な受け答えで占められているそうだ。

例えば「えーっと」や「あー」などと言って間を取るのもそうだし、語尾に「じゃん」や「ね」などを付けるのも話し言葉の特徴と言える。
また会話というものは、相手の反応によって論旨をクルクルと変えることが多い。状況に応じてあっちこっちへ飛ぶのが会話の特徴なので、一貫性はそこまで重要視されない。

そういった点から見ると、文章はそうはいかない。文頭にいちいち「えー」とか「あー」とか書かれてある文章なんて気持ち悪くて仕方がない。それに会話と違い、文章では一貫性が欠如していたらあっさりと駄文と掃き捨てられてしまう。会話の要素を文章に活かせる機会は少ないのだ。

やはりここでも話すことと書くことは別物と考えて、それぞれに相応しい技術を身につけるほうが確実という結論になるだろう。会話のニュアンスを文章に出そうとするのは悪いことでは無いのだろが、徒労に終わることのほうが多いかもしれない。

そこで「話すように書け」などと信じていると文章を綴ることが、苦行とまではいかなくても、人間にはやや不自然な、もっといえばかったるい、そしてじれったい作業となる。むしろ「話すようには書くな」と覚悟を定めて、両者はよほどちがうものだというところから始めた方が、ずっと近道だろう。

名文を読め!

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著者は文章上達の秘訣を丸山才一の文章読本を用いて示してくれた。

文章上達の秘訣はただ一つしかない。秘訣とは何のことはない名文を読むことだ。とにかくこれしか道はないのである。作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、これに尽きる。
われわれは常に文章を伝統によって学ぶからである。人は好んで才能を云々したがるけれど、個人の才能とは実のところ伝統を学ぶ学び方の才能にほかならない。

ヒトが言語を獲得した瞬間にはじまり、過去から現在を経て未来へと繋がって行く途方もなく長い連鎖こそ伝統であり、わたしたちはそのうちの一環である。
ひとつひとつの言葉の由緒をたずねて吟味し、名文をよく読み、それらの言葉の絶妙な組み合わせ法や美しい音の響き具合を会得し、その上でなんとかマシな文章を綴ろうと努力するとき、わたしたちは奇蹟をおこすことができるかもしれない。その奇蹟こそは新たなる名文である。

新たな名文は古典のなかに迎えられ、次代へと引きつがれてゆくだろう。すなわち、いま、よい文章を綴る作業は、過去と未来をしっかりと結び合わせる仕事にほかならない。もっといえば文章を綴る文章を綴ることで、わたしたちは歴史に参加するのである。

自家製文章読本

  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:新潮文庫
  • 発売日:1987/4/28

モデルプロフィール

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  • 名前:Reina
  • 出身地:埼玉県
  • 職業:受付
  • 趣味・一言:アロマの勉強中です♡
  • 最近の悩み:突然辛いものが食べたくなる
  • Insta:@wataame.pink

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

タバオ

大学受験に失敗し、1年浪人するも不合格。コンビニ、土方、ヒーローショウ、環境調査隊、家電量販店のアルバイトを経験するが、やがてはニートにまで落ちる。だが、失うものがないからこそ、開き直れる! 高卒だっていいじゃない。ニートだったからって何なのさ! よく読むのは、歴史小説と漫画。好きな歴史小説『播磨灘物語』、漫画『NHKにようこそ!』。