昭和の頑固おやじとは、まさにこのこと 『父の詫び状』

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父の詫び状

  • 著者:向田 邦子
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日:2005/8/3

 

仲がいい家族だけど、たまにイラっとする発言や動作をすることがある。

私は人の家の話を聞くのが結構、いやかなり、好きだ。

SNSに家族との食事やお出かけの写真をアップする人も増え、見ているととても微笑ましい気持ちになる。

気持ちのいい性格をしている友人の親御さんは、やっぱり豪快で、さっぱりしている。
この親にして、この子あり。鳶が鷹を生む、と思ったことはあまりない。

かといって、全く生き写しのようかと言えば、そうでもない。
うまくバランスが取れているんだろうな、と思う。
そこには家族が長年培った、阿吽の呼吸が存在しているのだろう。

そんな阿吽の呼吸を描いたエッセイが、向田邦子の『父の詫び状』である。

昭和の頑固おやじとは、まさにこのこと

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向田邦子はテレビやラジオの脚本(代表作は『寺内貫太郎一家』)やエッセイストとして名を馳せた文筆家。
『父の詫び状』はエッセイとしての代表作で、会社に給仕として入りながら、幹部社員にまで上り詰めた苦労人の父親とのエピソードを中心に、家族のことを描いている。

時代は戦前から戦後にかけてなので、今はもう絶滅危惧種ともいえる「頑固な父親」、そのものだった。

絶対に自分の失敗を認めず、妻(著者の母親)には時に鉄拳を振るう。
今では間違いなく、DVだと騒がれるだろう。

本書の全体的な雰囲気は、父親を中心にした家族の思い出話で、悲愴的なところはまるでない
時折、「父親のこういうところが嫌いだった」と述べる個所が出てくる。

しかし、思い出として書いているということは、決して思い出したくない過去でもなかったということだ。

ここに、阿吽の呼吸が見られると思う。

たとえば、父親がカルメ焼きを作っているときのエピソード。
作るときは、子どもたち全員がそろわないと、機嫌が悪くなった。

カルメ焼は加減が難しく、失敗すると膨らまずに割れてしまう。
子どもたちが緊張のあまり息を吐くと、「ヘンな時に息をするな!」と怒鳴られる。

と、ここまでならただの頑固な親父の話。
このエピソードに、「うちで一番の笑い上戸の母は、何かと用を作って台所にいたが、水仕事をする母の背中とお尻が細かに揺れて、母が笑っているのがよくわかった」とオチがつく。

何のことはない、皆父親の性格を分かって付き合っているのだった。

家族の阿吽の呼吸を成り立たせている要因とは

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本書中によく出てくるのは、父親が、自分の父親も知らない苦労人で、その反動で大きな家、大きな庭を造っている、という話だった。

父親の生い立ちまで、深い理解があってこそ、理不尽なことでも後年は笑い話にできたのだろう。
家族内でも個人が重視される時代だからこそ、個人と個人の対話と理解が重要である。
その示唆を本書からは感じ取れる。

実は以前取り上げた河合隼雄『家族関係を考える』にも、ほぼ同様の内容が書かれている。
父親、母親、兄、といった枠にはめて考えるのではなく、一人の人間として接する。

阿吽の呼吸は目に見えないものと考えがちだが、それを生み出す前までには、目に見えるコミュニケーションが大事なのだ、ということかもしれない。

家族とはいえ、イラっと来ることもある。
しかし向田一家のように、「まあ仕方ないか」と納得できるポイントを見つけられたら、円満とまではいかなくても、うまく家族が回っていくこともあるかもしれない。

一種の妥協も、時には悪くない。そう思える一冊だ。

こんなお悩みを解決

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普段は仲がいい家族だけど、気に食わない部分が目につくこともある
⇒気に食わない部分を作り出している要因(時には家族も直接目にしていないこと)があるかもしれない。それを知っておくと、その部分も少しかわいらしく思えてくるかも。「仕方ないなあ」とこちらが少し折れるくらいの気持ちが、実は家族円満には良いかもしれない。

父の詫び状

  • 著者:向田 邦子
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売日:2005/8/3

モデルプロフィール

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  • 名前:須藤菜々子
  • 生年月日:1996/1/30
  • 出身地:京都府
  • 職業:法政大学
  • 趣味:カメラ
  • 最近の悩み:滑舌が悪い

(カメラマン:伊藤広将)

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WRITERこの記事を書いた人

庭野蹴

同級生に同級生と見られない老け顔(両親譲り)眼鏡(父親譲り)の男性。お母さん方の井戸端会議によく顔を出しつつ、平和な青春時代を過ごす。 血のにじむような努力(とカロリー過多な食事)の末、早稲田大学に入学。授業に来なくなる友人を尻目にいそいそ学問に励む。結果、ちゃっかり論文で入賞したことも。また、(若さゆえ)関係各所に噛みつきながらフリーペーパーの制作もしていた。現在は社会人。