このコーナーでは、『本to美女』編集部のライターがお勧めする本を紹介します。
最近はめっきり見なくなったが、私が幼かったころは学校が長い休みに入ると、決まってサーカスがやってきた。赤と白のテントの向こうには、見慣れない動物がたくさんいる、あの不思議な感覚。何が起こるか分からない期待にも不安にも似た、とても純度の高い幼いころの感覚を久しぶりに思い出すきっかけとなったのが「ぶらんこ乗り」だった。この本は、ある兄弟が主人公で進んでいく物語である。まるで、古びた童話を開いたような懐かしくも純粋な香りが作品全体に漂っていて、遠くに忘れてきたものがふと思い浮かぶ。ぜひ、読んで頂きたいので詳しい内容には敢えて触れない。しかしながら、ラストの数ページを読み終えるころには、きっと大粒の涙を溢してしまうだろう。
物語の中には、家族でサーカスを見に行くシーンも描かれている。そう、私の知っている夏休みのあのサーカスだ。ブランコ乗りが宙を舞う。掌と掌が重なる瞬間に大歓声が巻き起こる、あのサーカスだ。消えかけていた香りを、また思い出した。
こんなにも純度の高い大人のための物語に、私は今後も出会うことはないのだろうなぁと思えた、そんな大切な一冊です。
ぶらんこ乗り
- 著者:いしいしんじ
- 出版社:新潮社
- 発売日:2004/7/28
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