僕は就職活動を終えたら、村上春樹が読めるようになった

「家にノルウェイの森があるんですけど、いつまでたっても読めないんです」
本to美女編集部のとある女の子がこうつぶやいていた。

世界的に知られる小説家、村上春樹。
海外でも彼の小説はとても人気だ。
熱狂的なファンはハルキストとも呼ばれている。

しかし、ハルキストと呼ばれる熱狂的なファンがいる一方で、
「村上春樹の小説が読めない!」と嘆く人も多いと思う。

たしかに彼の小説は独特な文体が続いていて、正直読むのにだいぶ苦労する。
自分も彼の小説が全く読めなかった人間のひとりだ。
何回チャレンジしても途中で挫折してしまっていた。

世界的な小説家だから、この文書を読めない自分が悪い……
自分の読解力のなさが原因だとずっと思っていた。

就活を終えるまでは……

就活を通じて体感したこと、それは
「自分は世界の中心じゃない」ということだった。

自分は学生時代に自主映画を作っていた。
海外でバックパッカーをした。
アルバイト先でも店長に信頼されているし、後輩の指導もうまかった。

など、自分は心のそこですごい人間だと思っていた節があったと思う。

「君は人とちょっと違う! 考え方が独特で面白い!」と誰かが言ってくれるのを待っていたのだ。

電通や博報堂のクリエイティブな人たちは自分を認めてくれる。
ふつうの人とは違うクリエイティブな場所に行ける。

自分は「何者かになれる」と勘違いしていたと思う。

就活の結果は惨敗。

ごく普通の学生生活を送っていた大学生が、大手に内定したり、
自分より学歴がちょっと低い人が、自分が志望していた企業に内定したりする。

なぜだ?

内定を何社からも取れる人と、1個も取れない自分との違いはなんだ。
なんで自分だけが落とされるんだ?

面接をけろっと通過する就活生の特徴を考えてみた。
大手に内定をもらえた人と話してみた。

するとわかったことがある。

就活をすんなりうまくいく人の共通点。

それは、「自分を心底、ふつうの人間だ」と思っていることだった。

面接を通過していく人はみんな、無駄な自我などを捨てているのだ。

就活に勝つ人は、
言い方が悪いかもしれないが、中身が空っぽなのだと思う。
自我や承認欲求というものがないのだ。

就活を終えた今、あの頃の自分は承認欲求の塊だったなと思う。
自分というものを強く持ちすぎていたのだ。

承認欲求というものが少ない人。
自分を心底、普通だと思っている人。
中身が空っぽな人ほど人を惹きつけるんじゃないか? とも思った。

先日、とあるバーの店長さんと話しているときも同じことを感じた。
その人はフェイスブックでは友達が四千人以上いて、毎日友達と飲んだり、
休みの日のたびに友達と遊びに行ったりして、とても話していて愉快な人だった。

その人も言っていた。
「俺って承認欲求が少ないんだよね」

自分というものを強く持っていない。
他者から認められたいと思っていないから、人の話を素直に聞く。
その素直さに惹かれて、店長の周りにはいつも人が集まってくるんじゃないか?

承認欲求が少ない人。

わかりやすい例を言うと
爆笑問題の田中、タモリさんなどがそうだと思う。

特に有名になりたいわけではないけど、いつの間にか芸能界で有名になっちゃったという感じ。
承認欲求が少ないからこそ、彼らの周りに人が集まってくるんだと思う。

空っぽな人ほど、多くの人を惹きつけるのだ。

そんなことを考えながら店長さんと話していると、
この感じどこかで見たことある気がするな? と思った。
なんか本で読んだ気が。

村上春樹だ!

彼の小説は内容がなくて、主人公に共感するのが難しかった。

中身が空っぽなのだ。

村上春樹の代表作「ねじまき鳥クロニクル」にこんな一節がある。

彼の意見を聞き、書いたものを読むと、そこには一貫性というものが欠けていることがよくわかった。
彼は深い信念に裏付けされた世界観というものを持たなかった……
もし彼に世界というものがあるとすれば、それは
「自分には世界観の持ち合わせがない」という世界観だった。

ここの文章に彼自身の文学に対する捉え方がにじみ出ていると思う。

一貫性がないのだ。
中身が空っぽなのだ。

なんでも受け付けるスポンジみたいなもの。

ものを書くということは、たいていは
人に自分の考えを伝えたい!
自分はこんなことを考えられるんだと知ってもらいたい!

という承認欲求がエネルギーとなって文章に落とし込まれていくんだと思う。

しかし、村上春樹の文章にはその部分がないのだ。
空っぽなのだ。
だからこそ、多くの人を惹きつけるのではなかろうか?

自我が強く、自分をしっかりと持っている人ほど、
村上春樹の小説が苦手だと思う。
小説の中身が空っぽで、登場人物たちに共感できないのだ。

村上春樹の小説が読めなかった理由。
それは、自分の中にある承認欲求の問題だったと思う。

私は就活を通じて、自分の承認欲求の存在に気づいた。
自分が持っている無駄な自我っていうものに気づけた。

だからかもしれないが最近、村上春樹の小説にはまっている。

なんど読んでも読みきれなかった「ノルウェイの森」がすらすら読めるようになった。
こんなに美しい小説だとは思わなかった。

村上春樹はだいぶクセがある小説家だと思う。
しかし、バーの店長さんのように人を惹きつける力が彼の文体の中には備わっていると思う。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

WRITERこの記事を書いた人

kikuchan

6月9日(ロックな日)生まれ。 映像制作会社勤務。TSUTAYAから年賀状が届くほどの映画マニア。年間350本の映画鑑賞。 「映画ばかり見てないで、勉強しなさい」と言われて育つ。 学生時代は映画の新人賞受賞。文学だけでなく、あらゆる本を読むようにしてます。 好きな本:『竜馬がゆく』『スティーブ・ジョブズ』 趣味:座禅